15 友達兼、彼女

お昼や休みの時間は、普通は…というと俺は普通じゃないと思われてしまいそうだが、学校には購買があってそこでパンやらおむすびだとか弁当が売ってて、それを買うか弁当を持参して「クラスメート」と食べる。
俺の様に友達の居ない奴は、昼休みになると静かに居なくなって昼休みが終わる頃にはいつの間にか教室に戻ってきている。なるべく学校にいる時間を少なくする努力をしているのだ。学校の近くに大きな公園があるのはある意味不幸中の幸いって奴なのだろう。そこでコンビニで買った弁当やらお菓子を食べる。
だが女子高生である今の俺にとっては昼休みの優雅であるはずのなひとときが苦痛であった。普通系女子グループに完全に組み込まれてしまっている。女子は何故群れるのだろうか?それと、まるで彼女等が俺の事を気遣って仲間に組み込んだと思われがちだが、もちろん、俺は最初はそう思っていたが、何度か話すうちになぜ俺を組み込んだのか理由が解ってきた。彼女等はその理由を俺に話したら、きっと俺が満足するだろうと思ってたのだろうか?理由というのは…俺がいれば男子と付き合える可能性が増える。だそうだ。コイツ等殺していいかな?いいよね…。
それを最初に聞いたときは会社では愛想笑いだけが唯一のとりえだった俺でも、殺意が芽生えて額に血管を浮き上がらせてしまったかも知れない。さすがに顔の筋肉のコントロールにも限界という言葉は存在する。そしてそんなくだらない理由の為に俺の貴重な時間が拘束されていると思うと、その都度、奴等への殺意が増していくのだ。
まぁその話は置いといて、月曜日の彼女等の話題は予測はしていたが「俺と片山のデート」に関してだった。立川が最初に、
「ねね、結局、片山くんとデート行ったの?」
「ん。言ったよw」
「え!マジでぇ!!」
うっせぇッ…「マジでぇ!」の「マジ」部分がクラス中に響き渡るぐらいの音量だ。コイツ、先生に声が小さいとか怒られてるクセに出そうと思えばこんな強烈な叫び声出せるんだな、マジでお前本気だしてないだろ。だからナメてるとか言われるんだぞ。
「え、なになに?」などと、他の話をしていた女子どもも立川の大声に気付いて(そりゃ気付くわな)詳細を聞こうとする。
まひる、片山くんとデート行ったんだって!」
「えーッ!!」
何そんなに驚いてるんだ、ムカつくなぁ…。やっぱり片山のようなキモ面が俺みたいな完全エロゲ美少女とデートすんのがそんなに驚きなのかな…?そして俺はふと、今まで溜めに溜めていた疑問をぶちまけてみようと思ったのだ。
「あたしと片山くんがデートするのって…そんなに驚きなのかな。やっぱり片山くんって顔とか気持ち悪いとかそんなこと思われてるのかな」
さぁこれでどうだ!お前らの本音をぶちまけろ!
一瞬周囲が静まった。あれ?どうした?
普通系女子グループ、「そうだね、キモ面だよね〜…」だとか「アニメとか見てそうだよね」だとか「デート?レイプされなかった?」だとか色々あんだろ、言う事がさw、さぁ、ATフィールド展開完了だ。お客様からのご意見・ご要望お待ちしておりますよ!
「そ、そんな事無いよ全然ッ」
「そうそう、別にキモくなんてないし」
あれ?どういう事?俺が思ってた事と全然違うな…顔がキモいんじゃないっけ?もう一度慎重に、慎重に聞いてみよう。こいつ等俺が片山と付き合ってるからその彼氏をキモいとか冗談でも言えないんじゃないのか?
「その…一部の女子がさ、顔がキモいとか言ってた気がしたから」
なんか自分で言ってて胸が凄く苦しくなるのは気のせいかな…気のせいだよね。
「顔は…別に普通じゃないの?というかちょっとカッコいい部類に入るかも。たださぁ…片山くんって全然話しそうじゃないじゃん。友達とかと話してるの見た事ないし。声とかも聞いたこと無いかも」
「うんうん、デート中に何話すんだろって感じだよね」
「話し掛け辛いからさ、まひる、どうやって話し掛けたんだろ、って思ってた」
「あ〜でも何考えてるのか解んない印象はあるね」
「その女子も何考えてるか解んないから怖かったんじゃないの?」
キモ面じゃないって…!どういう事?嬉しいような悲しいような…なんだったんだ俺の30年。ずっとずっと顔にコンプレックス持ってたのに…なんだよそれは!聞いた時は一瞬嬉しかったが、ふつふつと怒りが込み上げてきた。
確かにずっと誤解し続けてきた自分が悪い。最初にキモイだなんて言われて、それを態度の事じゃなく顔の事だと思い込んだ自分も悪い。でも、息苦しい教室を抜け出して一人寂しく昼食を採っている事にも、この普通系女子グループは「のほほん」と楽しそうに昼食を採っているんだ。そして恋人や友達と楽しい学生生活を送る。その一方で俺は学校に行きたくなくて、生きている事に意味を見いだせなくて何度か死のうと思ったりもしてる。ふざけんなよ。俺が何をしたってんだ!
俺は食べ掛けの焼きそばパンを袋に入れて立ち上がった。
まひる?どこいくの?」
「片山くんのとこに行ってくる」
「え?」
普通系女子グループの視線は俺に集中したまま。
「片山くん、お昼休みずっと一人で寂しそうだから、あたしが一緒にいてあげるの」
たぶん、この台詞は怒鳴っているようにも聞こえただろう。普段温厚で可愛い声で話す俺が最初で最後の怒鳴り声を出すのは今回でいい。俺を広告塔の様に扱う連中と一緒にお昼ご飯は食べれない。どおりで焼きそばパンが不味いワケだ。
教室を飛び出して下駄箱を駆け抜けて、校門、そして道路、そえから公園。もうコンビニでの買い物は終わってベンチに座って昼食を採ってるはずだ。待ってろよ17歳の俺。一人でいる辛さはお前よりも俺のほうがよく解ってるから。30年ずっと一人で生かされてきた俺のほうが解ってるから。
小高い丘の上にある高校の隣に県内でも有数の大きな公園がある。高校から繋がっている小道を通って公園内へと入ると、丘の上に向かって吹き上げる春の風で髪が巻き上げられる。日差しが強くなり始めた夏が近い時期の冷たい風は心地良い。走って少し汗を掻いていたが一瞬で乾く。平日の昼間はそれほど人は多くない。そして学校に近いのに、昼休みなのに、生徒は殆どこの公園には来ていない。面倒臭いのが理由なんだけど。
どこに行けばいいのは俺には解っていた。公園内の丘をずっと上がったところに街が一望出来る場所がある。冬は少し寒いが夏はいつも風が吹いてて心地良い場所だ。高校の時は雨の日以外、ほとんどそこで昼休みの時間を潰していた。
いた。
17歳の俺は一人でベンチに腰掛けて街を眺めながら、コンビニで買ったBLTサンドやらコーヒー牛乳やらを嗜んでいた。
俺が走ってきたので足音で誰かが来た事は解ったのだろう。でも俺が「あっくん」と叫んだのは予想外だったと思う。そんな呼び方をするのは家族でもなく、友達でもなく、恋人の俺だけなんだから。驚いて振り向く片山。
まひる?」
「はぁはぁ…見つけた」
思った以上に身体が疲れた。男の感覚で走ったから身体能力が追いつかないんだろう。俺はよろよろと片山が座るベンチに腰掛けた。
「どうしたの?」
どうしたのって、理由なんて考えてなかったな。「片山が一人でお昼ご飯食べてるのが可哀相だから」なんて答えたら馬鹿にしてんのかって事だし。
「一緒にご飯食べてもいい?」
「え?いいよ、全然OKだよ」
身体を落ち着かせてから少しずつパンを口に運ぶ。
「ここ、景色いいよね」
「うん、お気に入りの場所なんだ」
嫌な事があったときは夜空に星が輝くまでこの場所に座って夜景を眺めてた。高校に入学してから、卒業するまで街の景色は変わらなかった。どんなに俺の心境が変わっても、その素敵な場所は何も変わらずそこに在った。「ずっと何も変わらないもの」そういうものに対しての安心っていうか、頼っているっていうのが自分の中にあった。
でも今の17歳の俺は、この場所よりも俺に興味があったみたいだ。
「どうしてここが解ったの?」
どうしてか…これも理由を考えてなかったな。でも、どうしてここが解ったのって言うのは、俺がたまたま景色のいい場所に着たら片山が居たってんじゃなくて、まるで片山を探して来たという前提みたいだ。まぁそうなんだけど。片山は俺が片山の事を意識している事は既成事実となっているみたいだ。
「なんとなく」
そうとだけ俺は答えた。
「ここに来たら嫌な事とかも忘れられそうなんだ」
「…嫌な事ってどんな事…?」
「ん〜…色々。俺ってさ、ずっと友達居ないから、そういうので今まで色々とやな事経験してきたからさ…彼女も居ないし」
「彼女も?あたしは彼女じゃないの?」
「あっ、ごめん。彼女は今まで居なかったって意味」
「あっくん。あたしがあっくんの友達になるよ。彼女兼、友達」
それまで片山はずっと街のほうを見て話していたが、その台詞で初めて俺のほうに向いた。その時、俺が片山をずっと見つめて話していた事に気付いたようだ。丘から吹き上げてくる優しい風が片山の髪を撫でる。
ずっとキモ面だと思ってた自分の顔、よく見ると凄くカッコイイかもと思えてくる。男の主観で男の顔を見ててもかっこいいかどうかは解らないな。女が男好みになるのが難しいように、男が女好みになるのも難しいんだと思う。女子高生になって初めて片山の、俺自信の魅力に気付いてきたように思える。
俺は片山を見つめたまま、目を半目にした。たぶん、こうしたら…
チュッ。
片山の柔らかい唇が俺の唇に重なってくるのが解る。それから肩に手が回ってきてより密着してくる。その感触を味わいながら俺の唇は片山の下唇などを軽く挟んだり、舌で前歯あたりをコツンと刺激したりした。
「あ、俺…まだ言ってなかった」
「ん?」
唇を離してから片山が囁いた。
まひるの事が好きだ。付き合ってもらっても…いいかな」
「あ、あたしも、あっくんの事が好きです」
まるで社交辞令の様な告白。でもそういうものってやっぱり社交辞令のようなもんだろ?好きなら言葉は要らないし。そして、もう1回、半目にしてみる。これがキスの合図だぜ。やっぱり片山の唇が重なってくる。
それから何度かキスをしたが、何度もやってると飽きてくるのか片山は俺のブラウスの胸の谷間に視線が泳いできた。俺が男の心境なら恋人でもよほど仲良くなけりゃ気軽に触れないだろう。だから俺のほうから、
「触ってもいいよ」
と促す。
肩に掛けていないもう一方の手で服の上から胸を触る片山。いつものようにやさしく触るのだが、残念ながらブラがあるので手の感触がうまく伝わってこない。試しに俺は片山の手を取って強く胸に押し付けてみた。んん、このほうが気持ち良い。片山の目はさっきよりもさらにトロンとした風になった。緩めに結んでいたリボンを片山が解いて、フロントホックのブラを外そうとする。
「えと、このブラはこうやって外すの」
と言って、俺は片山のブラの外し方を教える。
プチッと小さな音がしてブラから開放されたおっぱいが白い谷間を露骨に表す。そこに片山の大きな手が差し込まれる。ッ…気持ち良い。その暖かい手が片方のおっぱいを鷲づかみ。しばらく感触を楽しんだのか、その後に勃起してきた乳首をツンツンと触る。
「こういう風に触るの、気持ち良い?」
と聞いてくる片山。
俺は波のように押し寄せる快感に身体をピクリピクリと動かすだけで、その質問に答えるほどの余裕はなかった。そして片山がもう片方のおっぱいにも同じ様に手を突っ込もうとした時、チャイムが聞こえた。公園まで聞こえるチャイムはもう午後の授業が始まるという合図だ。1回目は警告、2回目は本当に授業が始まる事を意味する。
「あ、チャイムだ」
俺がそういうと片山も手を止めて「あ、うん。戻ろう」と言う。強引な性格だったら授業なんかサボって公園で続きを楽しもうとするだろう。だが俺はそうではないみたいだ。彼女が出来て解ったことだが、基本、俺(まひる)が嫌がる事はしないようだ。
俺もこのまま続けようかと迷ったんだが、公園で目立つ位置だというのと、二人が午後の授業に欠席しているのは明らかにセックスしていると思われるから。それでバレて退学にでもなったらヤバイ。
衣服を整えてベンチを立とうとすると、何故か片山だけはそのまま立たなかった。もしや?
「どうしたの?行かないの?」
「あ、先に行ってて」
うわ、勃起しまくってる。ですが、
「いこうよ、あっくん〜」
などと言って俺が片山の手を引っ張る。解っててそれやってるからたちが悪いよなww片山も「ちょっ、待って」などと言いながらなかなか腰を上げようとしない。
「男の事情なんだから、収まるまで立てないよww」
精神を集中し、ナニをおさめようとする片山をよそに、俺は、先ほどのように街を一望できるその位置で今日のこの街の姿を記憶しておこうとした。あと、パンツが濡れてるのでそれを乾かそうとした。