3 体験した記憶は他から聞いた記憶よりも重要だという事

今日起きてから少しだけ昼食を取った僕は、(実はいつも起きるのは仕事がある時以外はお昼なんだよね)ぶーちゃんの部屋の中を散策し始めたんだ。
一つは漫画本をいくつか読もうと思ってたってのがあって、ぶーちゃんの部屋はアニメや漫画関連の様々な品があるわけだけど、中でもとりわけ漫画本の数は半端無くあって、それ専用の部屋が小さいアパートながらもあるんだな。そしてもう一つは、まぁ、それは僕の『男の事情』って奴でさ、エッチなデータディスクでも一つや二つ借りていこうかと思ってたわけさ。身体は女だけど頭の中は男なもので。
「ぶーちゃん、入るよ〜」
ちなみに合鍵は友達である僕しか持ってない。
部屋の奥からは「ん〜」という小さな声が聞こえた。たぶん、ぶーちゃんが奥の端末がある部屋で何かデータの整理でもやっているんだと思うんだ。ぶーちゃんが部屋に居る時は大抵はデータの整理をやってるか何か食べてるか漫画本を見てるかアニメを見てるかのどれかなんだよね。
僕はとりあえず新刊が置かれているテーブルの上をゴソゴソをまさぐって気に入った漫画を拾い上げると、ぶーちゃんのベッドの上に寝転がってそれを読んでいたわけさ。そうこうしてるとぶーちゃんがドタドタと動く音が聞こえて、山の様な巨体が玄関の側に置いてある箱からかなり年代モノのデータディスクを持ってきては奥の部屋へと移動するのね。
「それなに?」
「ふぅ…。これは、その、あれだよ」
アレって言われたら、アレだよね。何かのイヤらしいアレだよ。僕はぶーちゃんが奥の部屋へと消えていくのを追っていって何かのイヤらしいアレの詳細を詰めようと思ったわけさ。そんで着いていった先には山済みになってるデータディスクと、その山の向こうに見えるネットワーク端末があった。あのぶーちゃんですら隠れてしまうほどにね。
「うわ、なにこれ」
黙々と作業をしているぶーちゃんの側の山の頂点にあったデータディスクを一つ拾い上げてパッケージを見てみると、
「『ガチナンパ・中だしコレクション』」
ついつい声に出して読んじゃった。
「す、ステーキを注文したら、鉄板の上に、に、肉だけ乗ってるんじゃつまんないよね。だ、だから、それは鉄板の上のニンジンやら、ピーマンやらなんだ。ステーキのあ、味に慣れた後に、ニンジンで口の中の味を戻して、また、す、ステーキを食べるんだ」
「なるほど…口直しかぁ」
確かにアニメや漫画の中の女性は完璧に近く作られてるから、その完璧具合に慣れてしまうとつまんなくなるんだよね。そんで、不完全な現実の女性を一度見てからまたアニメに戻ると完璧具合が新鮮に感じれる…普段から漫画やアニメばっかり見てると、こんな口直しが時々必要になるんだな。気持ちは判るよ。
「それにしても、かなりのピーマンやニンジンの数だね」
ひょっとしたらアニメやらのデータディスクよりも多いんじゃないかな?
「と、友達がやってるディスクショップの倉庫に、た、大量に眠っていたんだ。埃かぶってる奴の中に、ご、50年ぐらい前の化石みたいな奴も、あるよ」
といってぶーちゃんが手渡したパッケージは、色があせていて何度も埃をかぶっては拭き取られってのを繰り返したものもあった。それもレンタルで使用されてたみたいで手垢?みたいなのがついてる気がする。僕はなるべくそれに触れる面積を少なくするように摘み上げて、道で見つけた気持ち悪い蟲でも見るみたいにそれをまじまじと見てみた。ファッションセンスが50年前、って感じはするけど、スタイルは今とあんまり変わっていないなぁ…。人はそう簡単には進化しないらしい。
「いくつか、み、見てみたけど、作られてる感が、い、否めないなぁ」
「作られてる感?」
「な、ナンパだって、ほんとにナンパしてるわけじゃ、な、無いみたいだしさ」
「そうなの?」
「こ、このシーンとかさ、男優がコンドーム使ってるんだよ」
随分とたくさん見てみたらしい。ぶーちゃんが見せたそのエッチシーンでは男優が事が終わってアソコを女性のソレから引っこ抜くときに何かを持ってる。たいていはボカシが入ってるはずが、ボカシを掛けもれていてアソコの根元の部分が見えてる。と、そこにはコンドームらしきものを取れない様に持ってる男優の手が映ってた。
「こ、こんなのみせられたら、全部、う、嘘だって思っちゃうじゃないか。アニメから、り、リアルに口直ししたのに、全然、り、リアリティがないっていうか…」
確かにそうかもなぁ。現実の女性を見るってのは別に汚いモノを見たいからっていうわけじゃなくて、リアリティを追求するってのがメインだからさ。
「そういえばさ、クリさんが昔のアダルトビデオとかも持ってたから、もしかしたらリアリティたっぷりのものもあったりするかもよ?」
「う、うん…」
う〜ん。なんかクリさんの話をすると反応が鈍くなるなぁ。苦手なのかな?
「ぶーちゃん、クリさんが苦手?」
「そ、そうじゃないけどさ…。ナオちゃんは、ぼ、僕の事よく知ってるからいいけど、クリさんは…。こんなにイヤラシイものを沢山持ってて、そ、それを吟味なんかしちゃってる僕みて、嫌がられるかなと思って」
「どうだろ?あの人も普通じゃないからなぁ。ぶーちゃんがイヤラシイモノを見てても赤面してから『きゃー』とか叫んだりっていうイメージが頭に思い浮かばない…。『ふむ、貴様はそういうのが趣味なのか』とか言いそう」
「じゃ、じゃあ…いってみるかな…」
ぶーちゃんが立ち上がり、もちろん、それで床なんかが揺れまくってるんだけど、データディスクの山はそんな程度じゃ崩れる事はないみたい。僕はその後をくっついていく。ついでに部屋にあったチョコピーナツの菓子をいくつかクスねて着たけど。沢山あるから減ってもわかんないよね。
クリさんの部屋は開けっ放しになってて、既に来客が居るみたいだった。靴が玄関に2個あるんでね。引っ越してきたばっかりの時にはダンボールなどが無造作に散らかっていた部屋も綺麗に片付いていて、家具とかもぽちぽち追加されてるみたい。でも自炊してるようには見えないなぁ。クリさんは食べ物にはあまり興味がないんだろうな。
そんで、部屋の奥からは男の声がするんだよね。聞いた事のある声がさ…。
「うっひょおおおおお!すげぇぇぇぇぇ!コイツ借りていっていいか?いいよな?」
網本かよ…。いったい何の様があるんだよ。
「網本、何やってるの?」
「あァ?なんだメスガキ。ここはガキとデブの来る所じゃねーぞ、シッシ」
網本がデコピンしそうだったので寸前でそれを回避してみる。ざまみろ、交わしてやってぜ、へへ。なんて調子に乗っているとあのがっちりした身体に思いっきり抱きしめられて、そのままデコピンを食らった。
「うぎゃぁっウ!」
「交わそうと考える事が間違いだぜ」
網本がさっき叫んでいたから、なにかイヤラシイビデオで網本好みの奴があるんだと思ってたんだけど、周囲を見渡してもソレらしきものがないんだよね。薄暗い部屋にはコンピュータ関連の機材とディスプレイ、それからラベルが貼ってないデータディスク。で、なにやらディスプレイになんか映ってる。ん?なんだこれ?僕の顔が映ってる。後ろから腕を回されて網元に抱きしめられてるんだけど、ペンの蓋みたいな大きさ、形のものを網本が持ってて、それを僕の目の前で固定してるんだよね。それが動くとディスプレイの画像も動く…。つまりこれって小さいカメラ?
「そのカメラをクリさんに借りたの?」
「おうよ!」
「それは私がスパイ時代に使っていた小型カメラだ。衛星通信で世界中のどこへいてもカメラからの動画を受信できるぞ」
とか言いながら、クリさんはカメラを見つめている。しばらくそうしてるとディスプレイにはカメラの例えば明るさだとか望遠?処理みたいなのが行われてるメッセージが表示されたり、白黒になったり、それから温感知センサーに切り替わったりしてる。どうも、クリさんが無線で制御したみたいだ。
「ほう!無線で制御も出来るのか?」
「電脳にドライバをセットアップすればな」
「いいね!教えてくれよ」
クリさんは例のしっぽのような首から生えてるネットワークケーブルを網本に渡すと、有線接続してドライバをインストールしてるようだった。そんな二人はほうっておいて、僕はぶーちゃんの目的と同じく、クリさんの部屋にあるデータディスクを棚から探してみたり、ライブラリを検索してた。どうも棚に置いてあるデータディスクは数がぜんぜん少ないみたい。それに前からクリさんはデータディスクをばんばんライブラリ(ネットワーク上にあるデータ保存媒体)に保存しているらしくて、バックアップすら持ってないみたいなんだよね。前にも行ってたけど、ぶーちゃんみたいなデータディスクのラベルすらもコレクションしてる人とはちょっと違ってて、そういうものも全部データ化するんだよね。例えば、データディスクのラベルだとか取り扱い説明書やら、それから商品紹介パンフレットなんてものさえもスキャナで読み込んでデータにしちゃうとか。
僕のぶーちゃんはライブラリを検索してよさげなアダルトビデオをディスプレイに表示したりしてた。そういえば勝手に人のライブラリ見てていいのかな?ま、いっか。そしてぶーちゃんが検索をとめてある一つのアダルトビデオ?とも呼んでいいかわかんないけど、それらしきものをじっと見つめていた。それは…イヤラシイ要素とかはあまりない、砂浜に移ってる女性、とくに小学生から中学生ぐらいの子供を重点的に映したビデオなんだよね。これはアダルトビデオの会社が制作したものじゃなくて、たぶん、個人で取ってるんだとおもう。画質もそれほどよろしくない。50年ぐらい前のものだと納得できる。
「ぶーちゃん、こういうのが好みなの?」
「う、うん…リアリティがあるよね」
「たしかに…」
リアリティっていうか、確かに演技してる要素なんて全然ない。そりゃそうでしょ、砂浜でみんなが楽しそうに遊んでる光景が延々と映し出されるだけだし、でも逆にエッチなシーンも全然ない。
「ふむ、貴様はそういうのが趣味なのか」
突然背後からそんな声が聞こえたからか、ぶーちゃんはその体重でありながらも10センチぐらい飛び跳ねたような感じだった。ちなみに声の主はお察しの通りクリさんね。
「え?あ、う、え、そ、そうだな。水着は好きかな」
ドライバのインストールを終えてクリさんはディスプレイに映し出された砂浜の様子を見ている。んで、背後からやっぱり網本が一言言うんだよね、余計な事をさ。
「この変態やろうが!お前、砂浜とかプールでカメラ片手にうろうろしてるタイプだろうが!ははは、キモデブ野郎!」
などと言いながらぶーちゃんの背中に足蹴りするんだよね、どうにかしてよこいつ。
「そういう網本はその小型カメラつかって何するつもりなの?」
「あーんっ?」
また網本が僕の身体を後ろから抱きしめて、おでこにカメラをぐりぐりしやがる。
「この小型カメラ様を女子更衣室やら女子トイレに仕掛けてだな、素敵なあの子のアンダーヘアーやら、小便やらウンコする様子を永久保存すんのさ!」
「うわ、最低」
「なんだとコラっ!」
「いてて、痛い、痛いってば」
また網本のクソ野郎が僕の頭に穴でも開くかっていうぐらいに拳でぐりぐりとしやがる。こいつ、力がこっちのほうが弱いってのを知っててやってやがるんだ。まったくもって汚らしい奴だよ、彼は。
「だいたいな、いまどきカメラ持って砂浜やらプールをうろうろしてたら警察にしょっぴかれるぞ。なんだっけ、肖像権侵害?個人情報保護だっけかな…プライベートな写真やら映像やらを本人の許可無く撮ったら罰せられるアレだよ。おい、デブ、てめぇまさかこのビデオの作者と同じ事をやろうって考えてたんじゃねーだろうな?」
などと抜かしやがりますよ、この男。
「いや、あんたがやってる事のほうが罪がおも、痛っ痛い痛い!」
網本はさっきから僕を抱きしめた状態でおでこやら頭やらを事あるごとにぐりぐりしやがる。ようやく開放された後はカメラ持ってそのまま自分の部屋に戻っていきやがった。いいのかな、あのカメラ高そうなのに貸しちゃって。
「網本が言うのも一理はあるな。貴様が砂浜やらプールやらで女児を映像に収めたいのならカメラを持って歩くのだけは止めたほうがいいだろう。ついでに言えば、バッグなどにカメラを忍ばせて持って入るのも検閲の対象となる。センサーに引っかかるからな」
「いやいやいや、ぶーちゃん、別にカメラで撮ろうなんて一言も言ってないし」
「ではどんな方法で女児の映像を撮るつもりだったんだ?」
「そもそも女児の映像を撮るなんて話出てないってば…」
などと話してると、ぶーちゃん、ディスプレイを見ながら一言、
「と、撮れるのなら、撮ってみたいかも…」
「え?」
「こ、子供の頃に、両親と海水浴行って、そ、その、女の人とかの姿が目に焼き付いてて、で、出来るならさ、それを映像で収めておきたかったな、なんて思ってたんだけど、でも、そ、それって犯罪なんだよね」
まぁ、ぶーちゃんがこの台詞を言うのも全然違和感なかったね、っていうかむしろなんで今までカメラで女児撮ったりしてなかったのかと思うぐらいに、エロに関しても追求してたんだよ。ぶーちゃんはさ。それでさ、こういう犯罪の匂いがする時には決まってこの人が手助けをするんだよね…。
「カメラを持たずして映像を撮る事も可能といえば可能だ」
うわー…。やっぱりそういう方向に行くんですか。そうですか。
「ど、どうするの?」という風にぶーちゃんが恐る恐る聞くと、
「人は目で見た映像を電気信号へ変換して脳へと送っている。電脳内の視聴覚ソフトウェアの情報を外部へと流せば可能だ。ただし、それを行うにはジェイルブレイクしなければならないがな」
電脳に関してはあまり詳しくはないんだけど、一応コンピュータ関係の仕事に携わっているのでジェイルブレイクという行為がどういう事なのかはわかるのね。つまりは、ソフトウェアはその品質を保つためにさ、大抵、勝手に改造したり出来ないようになってる。でも世の中には勝手に改造して使いたいって思ってる輩が沢山いてさ、そういう連中が改造する前に行う行為がジェイルブレイクなんだよね。そりゃまぁ、見た目を豹柄にしたりとか面白いメッセージを画面に出したりとかいうレベルなら可愛げがあるけどさ、大抵は違法行為が出来てしまうんだけど、それを出来ないように保護してるところを解除させるんだよね。
「そ、それは痛いの?」
とぶーちゃん。まさかジェイルブレイクやるつもり?
「痛くはないだろう。それに、昔は電脳の制御ユニットを改造するなんて行為は脳にダメージを与える可能性もあるからと危険視されていたが、今はジェイルブレイクの技術も制御ユニット用のソフトウェアの技術も上がっているからな。脳死する事もないだろう」
「の、脳死…」
「すぐに終わるが、どうする?ジェイルブレイクするか?ちなみに私も既にやっているが」
でしょうね。
「や、やってみたいかな」
え、マジで?やるの?確かに興味はそそられるけど、でもぶーちゃん、怖くないのかな?
「ふむ、では。失礼」
そう言って、クリさんはぶーちゃんの身体に触れた。こうやって身体に触れるってのは首にネットワーク通信するためのインターフェイスがなくて、普段から無線通信してる場合に『有線接続』の代わりになるんだよね。つまり、クリさんの身体を伝って微弱な電気信号がぶーちゃんの電脳と接続してるの。んで5分ぐらいその状態で固まってる二人。で手を離すクリさん。
「完了したぞ」
「えぇ?は、早いね」
「貴様もやるか?」
ん〜…個人的には電脳やらを弄るのは嫌なんだけどね。でもこれから便利なソフトが色々使えそうだからやっておくかな。
「じゃあ、ジェイルブレイクだけやって」
「了解」
ぶーちゃんの時と同じように、クリさんが僕の肩に手を当てて目を瞑る。多分、インストール作業なのだろう。しばらくしてから、
「終了した。ナオはジェイルブレイクだけ。デブのほうはジェイルブレイクとカメラのソフトウェアもインストール済みだ。今は私のライブラリに画像が伝送される事にしてるが、そこは好きに代えていい。まぁ話して説明するよりも見せたほうがいいな」
クリさんはそう言うと、手前にあるディスプレイを遠隔操作してなにやら切り替えたりしてる。んで、今のクリさんのこの部屋の様子が見えるんだよね。どっかにカメラでもあるみたいにさ。それで予測はしてたけど、そのカメラの視点がさ、ぶーちゃんの目の位置にあるんだよね。つまり、ぶーちゃんが見てる映像がそのままディスプレイに表示されてる。
「おぉぉぉ!す、すごい」
「これで貴様の目はカメラになった。ちなみに、電脳をハッキングされない限りは視聴覚ソフトウェアの違法ソフトがある事はわからないし、電脳をハッキングする事は犯罪だからな、警察にも見つかりにくいだろう」
「よかったね、ぶーちゃん」
「う、うん」
ぶーちゃんは興奮した様子で部屋を色々と見渡したり、僕やクリさんを見てみたり、それからディスプレイにそれらが表示されていく様子をみて喜んでいるようだった。
「こ、これってカメラのシャッターはどうするの?」
「モードをカメラに切り替えて、対象が視界に収まった状態でシャッターのコマンドを発行すればいい。ちなみにピントは自動であわせないから目で見る時と同じで角膜でピントを合わせておけ」
「す、すごいな、す、スパイのアイテムなの?」
「まぁ、軍では一般的に使われているソフトウェアだがな」
「た、試し取りしたいな…」
「試し取り?砂浜とかへ?」
「う、うん…今から海に行ってみたい」
まぁぶーちゃんがそう言うのなら。ちなみに僕も海はしばらくは行っていなかったからなぁ。ある事がきっかけで海ってものがそれほど好きじゃなくなったっていうのが理由なんだけど。ちょうど今の時期は海開きは終わってるから、家族連れだとか学生が溢れんばかりに海水浴を楽しんでいるんじゃないかな?ぶーちゃんにとっては標的が沢山いて練習になりそうだし。
「んじゃ、海いこっか、今から」
「う、う、うん、い、行こう」
「クリさんは?」
「ふむ。私もたまには外に出るかな」
というわけで、クリさんと僕と、それからぶーちゃんで同じ街にある海水浴場へと遊びに行く事になった。この『遊び』っていうのは普通の人が考えてるものとはちょっと違うんだけどね。僕やクリさんはそれぞれが海で泳ぐって準備などをして、ぶーちゃんはさっきの視聴覚ソフトウェアから画像データを自宅へ転送する設定をして、さっそく、ボロアパートを出る3人。そこでまた網本の奴に出くわしたんだ。
「ん?お前ら3人揃ってどっかいくのか?」
「海水浴場に行くよ」
「奇遇だな、俺もだよ」
網本の奴、なにやら機材などを車に積んでるのさ。ちなみに網本はどっかの会社の親のスネカジリ野郎で、普通に車なんぞを持ってやがるんだよね。働いていない奴は車なんて持ってない人が多いんだけど、コイツは親のスネカジリなわけだから、買ってもらったんだろうと思う。でも会社社長の息子って感じの車じゃあないなぁ。金持ちって思わせないイメージの車だね。
「車に乗せてってよ」
と、こんか感じに気軽に頼んでみよう。最初はぶーぶー言うだろうけど最後には乗せてくれると思ったんだ。
「はぁ?なんで俺がメス豚共を俺の愛車に乗せなきゃいけないんだ?オリモノの臭いとかがつくだろうが。それにデブ、お前を砂浜まで運ぶなら俺の車じゃ無理だ。トラックでもレンタルしろ。普通のトラックじゃダメだ。牛とか豚とか運ぶ農場にあるあのトラックだ」
随分と酷いことをよくもすらすらと並べられるよね…。どういう思考回路してんだか。
「一人で海水浴場に行くのはいいけど、周囲の目は冷たいもんだと思うよ。独身っぽいメガネの男がさ、一人で変な機材片手に車から降りてきたら、すぐにでも警察に連絡がいくんじゃないのかな?」
さぁ、これならどうだ?
「ちっ…乗れよ。デブ、お前は後部座席だ。タイヤが磨り減るからな」
よしよし。ぶつぶつ言いながらも網本は僕達を乗せて車を発進させた。
車は市街地を突き抜けて工場地帯も突き抜けて、そして港を抜けると目的の海水浴場となる。ぶーちゃんは窓の外を眺めていて、時折通り過ぎていく歩道の人々をじっと見つめたりしてた。この『じっとみつめる』って行為が多分、カメラのシャッターが押されてるんだと思うんだよね。「ぶーちゃん、撮った写真みてもいい?」と僕はお願いしてみた。「いいよ」と許可が下りたので、ネットからぶーちゃんの自宅のディスクにアクセスしてさ、今まで撮った写真とやらを見てみたんだよ。圧倒的に女の子が多かったね、ついさっき歩道を歩いてたキャミソール姿の女子中学生ぐらいの女の子なんかさ、足から腰、胸、顔、と部分撮影から全体撮影、前面からも背後からもバンバン写真に収めててね、一人の人物で30枚ぐらい写真があるんだよね。ってか、これ、写真を並べたら動画になるんじゃないのかっていうぐらいパシャパシャ撮ってるよ。すごい。
そうこうしてるうちに車は松林の中を走り始める。砂浜は近い。歩道を歩く人達の格好は海ってのを意識したものになっていって、中には水着姿であるく人もいる。その頻度が上昇するのと一緒に、ぶーちゃんのシャッターは激しく押されまくってるっぽい。
「い、いいよ、いい、ナオちゃん、このカメラいいよ」
「ふ〜ん」
「おいデブ、お前あんまし外をジロジロ見るなよ、俺達がどっかのアダルトビデオメーカーで撮影で海水浴場に来たみたいに思われるだろうが」
車は『駐車禁止』と書いてある札のすぐ側に停められた。これ、喧嘩売ってるとしか思えないんだけど…。網本は機材を降ろして時計を見つめた後に、
「それじゃ15時に集合だからな、お前ら、遅れたら置いて帰るぞ」
などと言って、機材を持って出かけていってしまった。結局あのコンピュータ関係の機材はなんだったのかな?まぁいいか。
さて、さっそく海についたわけだから、少し気は進まないけどひと泳ぎしてこようかな。ただ、その前にこの海に来て最初の楽しみの一つとしてだけどね、クリさんの水着姿が拝めるわけだよ。前も言ったけど、こんな身体だけど中身は男の子なのでそういう事が楽しみである事は健全な証でしょ?
クリさんは相変わらず首からしっぽみたいにネットワークケーブルが出た状態なんだよね。上に来てたブラウスを豪快に脱ぎ捨てると、かっこいい黒のビキニが姿を現した。あぁぁ、こういう感じが似合うね。でもクリさんのあの話口調からは男を誘惑する要素が皆無なんだよね。それからスカートやらニーソックスやらを脱いで全身のスタイルがあらわになる。僕と同じく、スタイルは普通の女性よりも格段にすばらしい。というよりもマネキンのようにダメな部分が無いんだよ。
そしてぶーちゃんはその欠点の無いスタイルをさっきから凝視してて、多分、凄まじい勢いで視聴覚ソフトウェアのカメラのシャッターが押されてるんだと思う。
さて。そろそろ僕のほうも脱ぎ脱ぎしようかな。クリさんと同じで服(パーカー)の下に水着を着てたんだ。ぶーちゃんの隣で脱ぎ脱ぎしてたら、さっそくぶーちゃんがそれを凝視。
「ん?」
「ご、ご、ご、ごめん、記念に写真を残しておきたいんだ。ナオちゃんの水着姿の」
「そう?しょうがないなぁ」
と、僕はモデルさんが脱ぐように一枚一枚、服を脱いでピンクのビキニをゆっくりとお披露目して見せた。
「な、ナオちゃんも、い、意外と、スタイル良いんだね」
「まぁね」
あれ?そういえばクリさんはどこへ行ったのかな?と、彼女は海の家の方向に向かって歩いていくみたいだ。「どこいくの?」って聞くと、「私はあの建物にいる。酒を飲んでくる」などと言って、手を振り振りした。あの格好でしかも一人で行くのならナンパでもしてくださいって感じだよね。っていうか、なによりクリさんは女子高生ぐらいの年齢に『見える』からお酒を売ってもらえるか疑問だけど。
「よし、ぶーちゃん!写真取りまくろうね」
僕はぶーちゃんの手を引いて海に向かった。あいかわらずに白い砂浜の熱い砂の感触は好きじゃない、いやーな思い出が自分からメモリーのロックを解除して飛び出してきそうになるんだよね。
ぶーちゃんも僕も、カナズチなので浮き輪は必須。でも僕は浮き輪は忘れたんだな。ぶーちゃんが浮き輪で漂いながら、周囲の女子高生やら女子中学生やら、時には家族連れで来てたとこの小学生ぐらいの女児も凝視してたよ。その隣で僕はぶーちゃんの浮き輪に捕まって立ち泳ぎ。このまま行けばまさにあの盗撮系のビデオと同じようなものが出来上がりそう。ビデオの完成を望んで、ぶーちゃんに可愛い女の子がどこにいるかを教えて指差したりしてあげた。
「す、水中撮影もし、したいかな」
「水中撮影?ぶーちゃん泳げるの?」
「だ、ダメだと思う…ナオちゃん、ぼ、僕の代わりに潜って撮ってもらえないかな?」
「いいけど、あたし、まだカメラインストールしてないや」
「そ、そうか。じゃあ、い、今から僕がインストールしようか」
「うん。どうすればいい?」
「む、無線接続してみる」
しばらくして、
「んん…ジャミングされてるのかな、で、で、電波状態が悪いや」
「そんじゃ、触れてみようか」
僕はぶーちゃんの肩に触れてみてもう一回接続を(今度はこっちから)やってみたんだけどやっぱりコネクションエラーになる。これはもっと近づかないとダメかな。
「ちょっとまってね、額と額をくっ付けるから」
「え、え?う、うん」
僕はそのままぶーちゃんの大きな浮き輪の上に乗っかって、その巨大な身体の首に手を回して自分のおでこをぶーちゃんのおでこに当てた。それから目を瞑ってアクセスしてみると…うん、今度はうまく接続できそうだ。
「じゃ、じゃあ、い、いまからインストールするね」
と、ぶーちゃんは目を瞑ってインストール作業をしてるみたいだ。経過を見るために僕も目を瞑り、電脳のアクセス状況を確認してみる。おーインストールされてる。ほんとに軍のソフトウェアなんだなぁ…。これが市販されたらカメラ撮り放題だから、犯罪に使われる(ってか今、犯罪に使ってるけど)可能性が大だね。まぁ犯罪以外の用途では使わないと思うけど。
っていうインストール作業をしてたらさ、とんでも無い事になっちゃって。なんていうか、二人して目を瞑って状況確認してたらさ、どっかのバカが水上バイクで波を起こしやがってさ、ちなみに瀬戸内海の海水浴場だからさ普通はそんな大きな波なんて無いんだよ。その波のせいで、普通におでことおでこくっつけてたから、唇と唇もくっついちゃってさ、でもインストール作業が失敗するからうかつに動けないし、そのままの体勢で終わるまで待ったよ。
「ご、ご、ご、ごごご、ごめん、こんなつもりじゃ」
「いいよ、事故だよ、事故。それより、もうおでこ離してもいい?」
「う、うん」
ぶーちゃんは日焼けもあるんだけど、顔が真っ赤になっててね、すごい慌ててたよ。
「う、うぁ、ナオちゃん、水着からおっぱいはみ出てる」
「げ」
ぶーちゃんの浮き輪にのっ掛かった時にブラがズレたんだ…気づかなかった。僕は慌てておっぱいを水着の中に納めて形を整えた。んで、
「そ、それじゃ、あたしが潜って水中撮影してくる、んん??」
なんか、ぶーちゃんが鼻血を垂らしてる。初めてみたよ、女の裸見て鼻血出す人。
「うぅ、の、のぼせたみたい」
「だ、大丈夫?」
「だ、だい、大丈夫」
まぁとにかく!潜って撮影してこよっと。
はじめて使う視聴覚ソフトウェアのカメラ機能、思った以上に便利な機能なんだよね。特に普通の人よりも視力が優れてる人なんてのはさ、カメラに収める画質も優れてくる。僕はその視力が優れてる人なんで、瀬戸内海の濁った水の中でも光に反射してる女性の太ももの白さを確実に画像として残しまくったよ。ちなみに保存先はぶーちゃんの自宅のディスクなんだけど、スクリプト組んで自分の家のディスクにも収めてみた。
さて、しばらくそうやって水面と水面下で人様の身体を写真に収めまくってくると、そろそろぶーちゃんも帰りたいなどといい始めまして、じゃあ帰ろうかと陸へ向かって泳ぎはじめる。そうそう、こうやって女性の裸を長時間見つめてるとエロいエネルギーが身体に蓄積されていってさ、どっかで爆発させなきゃダメなんだよね。男って奴はさ。
僕とぶーちゃんはクリさんがいる海の家(といってもバーみたいなとこだけど)へ向かった。そこでは僕はヘベレケになってるクリさんを想像してたんだけど、やっぱりこの人は酔うって事を知らないのか、少しだけ顔は赤かったけどそれが日焼けなのか酔っているのかわからない微妙な赤さなんだよね。
「盗撮の進捗はどうだ?」
「ちょっと…そんな事を大声で言わないで」
「ああ、すまん。もう帰るのか?」
「時間的にもそろそろだしね」
「あ、あの、か、カキ氷食べたいな」
やっぱり食べ物にいくのか、ぶーちゃん。ま、いっか。久しぶりに海に来て、そしてここは海の家なんだからさ、カキ氷ぐらい食べても。僕はカキ氷は苦手だからパフェを注文したけど。でも、ぶーちゃんはカキ氷を食べたいとか言っておきながらも、普段の彼みたいにただ黙々と食べてないで、僕やクリさんが食べてる様子をちらちらと見てた。やっぱりビキニ姿の女の子が目の前にいると食欲に集中できなくなるらしい。
パフェも食べ終えた僕は、さっそくシャワー室を借りてシャワーと着替えをしにいった。置いてあったボディソープを身体に塗りたくってあわ立てていて、ブラを外しておっぱいもゴシゴシとしてて、なんとなく、そこで『なんとなく』だけど違和感を感じたんだよね。とにかく、視界の中に『見た事のあるもの』があったきがしたんだよ。シャワーを止めてさ、部屋の上部の辺りをじっと見つめてみると…なんかペンの蓋みたいな黒いものがセットしてあるんだよね。そう、あれだよ、クリさんが網本に渡してたアレなんだよ。アレ。軍用の小型カメラがこんなところで簡単に見つかるはずがないんだよ。これは絶対、網本が盗撮目的でセットしてる奴だ。
なんだかムカついてきた。今こうしてる瞬間にも網本の奴は僕の身体を見てるわけさ。おかずにしてさ。前にも言ったけど中身は男だけどさ、それでも誰かにジロジロと見られておかずにされるのは違和感ありまくりなワケさ。僕はそれを取り外してやろうと背を伸ばすんだけど、身長が低いから、ちっくしょうめ、届かない。シャワー室のドアを開けてぶーちゃんを呼ぶ。
「ぶーちゃん、こっち、こっちきて」
「え?ええ?な、なに、どうしたの?」
「シャワー室の中に」
ぶーちゃんがドアの前に来たのでそのまま中にひっぱって、
「な、なに?え?!」
「天井に、ほら、あれ、クリさんが網本に渡した盗撮カメラだよ」
「うわ、なんでこんな、と、ところに、あるんだ」
「取って、アレ、取っちゃって」
ぶーちゃんが手を伸ばしてもたわない。どうやってあれ付けたんだよ、ったく。なんか悔しいな、網本の奴のライブラリに僕の裸が保存されてるってのがさ。まぁおっぱいだけで済んだけど。このままここでシャワーを浴びるのは絶対無理なので、僕は泡まみれのまま水着を着て別のシャワー室を借りて浴びたよ、ったく。
それをクリさんに話してさ、ほんとカンベンして欲しいよ、って言ったらさ、クリさん、そのシャワー室でシャワー浴びるとかわけわかんない事いいはじめる。クリさんは露出趣味でもあるのかな…。なんかクリさんまで全裸を網本に晒さなくてもいいのに。んで、結局、わけわからないままにクリさんがシャワー浴び終えた後に網本の車の前で、網本の合流。僕は掴みかかったね。でも網本は片手で僕の進撃を阻止しやがったけど。
「スケベ、変態!」
「おいおい、俺がスケベで変態だってのは解りきった事じゃないか。なんで今更叫んでいるんだ、このメスは」
「いつもいつもメスメスメスメスバカにしやがって!そのメスのおっぱいを必死に盗撮してるお前はなんなんだよ!」
「盗撮?なんの事かなぁ?というか、その小さな胸で『おっぱい』という名称を使ってはダメだろ」
「いえ、小さくないよ。Eカップなんですけど」
案の定しらばっくれてるな!やっぱり。鼻歌まで歌いやがってさ、さぞ収穫多かろうね。他にもあの部屋で盗撮のワナに引っかかった女性は沢山居ただろうし。まったく。警察に捕まってしまえばいいんだよ。でもクリさんは澄ました顔してたなぁ、終始。
そしてボロアパートに戻ってからクリさんとぶーちゃんとで収穫した写真やら映像やらを見てみる事にしたんだよ。歩道を歩くキャミソール姿の女子中学生から始まって、家族連れの女児、そんで女子高生達、それから僕とクリさんの水着になるシーン、それから僕の水着姿、そして僕の水着姿、それから僕の水着姿、そして僕の水着姿、…ん?、えと、それから僕の水着姿と、
「ぶーちゃん…あたしの水着姿しか映ってないんだけど」
「い、い、いや、ききき、気のせいだよ」
それから僕が目を瞑ってカメラに向かってる…ってこれキスしたときの奴じゃないか!
「…」
「こ、これは誰にも言わないから、言わないから永久保存させてよ」
「まぁ、いいけど」
そして、僕のビキニからはみ出るおっぱい…。
「…」
「こ、これも永久保存、は、だ、ダメかな?」
「ダメです」
消去。
「ぶーちゃん、8割あたしの水着姿ばっかりなんだけど、気のせいかな」
「ききききき、気のせい、だよ」
「デブはナオしか眼中に無かったようだな。私やナオが早く部屋から出て行ってくれる事をせつに願っているんじゃないのか?大人の事情という奴で」
「そ、そんなこと。ない、ないよ」
とかいうやりとりしてると、隣の部屋…多分、網本の部屋から叫び声が聞こえたんだよ。別に断末魔ってわけじゃないよ。断末魔ならなおよかったんだけど、叫んでるっていうか、泣いてるっていうか、とにかく絶望を感じさせる声だったね。
「どうしたのかな、網本の奴」
まぁ別に心配ってわけじゃないけどさ、網本の叫び声について、何か面白いコメントもらえないかと思ってね。
「ふむ…おおかた、盗撮してるカメラからハッキングを仕掛けられて自宅のディスクライブラリをフォーマットされたんじゃないのか」
うわぁ…エグイ…。