Dコレの中にあるベーシックインカム導入後の日本

最近、ベーシックインカムなる言葉がニコ厨の間で囁かれるようになっております。ちょうど自分が書いてる小説の世界にそれが登場しているので、それについてちょっと書いてみようと思います。
あくまでネタなので小説をそのまま楽しみたいと万が一にも思っている人はスルーしてください。

働かなくても生きていける社会だけど…。

主人公のナオやその仲間達は国から生活保護を受けて生きている。これは今の日本にある同名の単語とは違って、ベーシックインカムそのもの事である。このお陰で日本国民と認められたものは日本に居る限り、生きていく権利があり、その義務を背負っている。
住む場所・食べ物・電力・インフラが無償で提供され、一見すると素晴らしい世界のように見えるが…。実はそれほど素晴らしくはないのかもしれない。
少しでも生活水準を上げたいのなら、つまり、何か普通に生活する以外で欲しいものがあるのなら、働いて金を稼がなければならない。
ちなみに、生活保護は『金』の形ではもらえない。金があるからといって、生きていく為に金を使うとは限らないので生きていく為に必要なもの…つまり食べ物(の引換券)を配布している。(それでもナオは換金してアニメグッズを買うなどしているが…)
住む場所だって選べない。作中で登場している「ボロアパート」は名前ではなく、ナオ達が勝手にそう呼んでいるだけ。本当の名前はどうでもいいぐらい、ボロなアパートという事だ。

何故働かなくても生きていけるのか?

税金がどうとかそういう話は置いといて、高度に発達した技術は人々の生活をサポートしまくって、ついには働かなくてもいいぐらいまでとなった。
AIやドロイド・アンドロイドが安価な労働力となって人の代わりになって働いている。加えてハーベスター・プラントと呼ばれる現代の農家に代わる、食べ物の生産工場も作り出して、食料を自給自足してる。
まぁ、普通に考えたらそうなるわな。
人の生活を支える為の文明なんだから、発達したら楽になるのは当然。

働くことが今よりも難しい社会

元スパイのクリさんや、学生のユキは置いといて、ナオやぶーちゃんはたまに働いているが、それらの職種は「誰にでも出来る仕事」ではない。ナオはプログラマーだし、ぶーちゃんはドロイドのエンジニアだ。
誰にでも出来る仕事はドロイドやアンドロイドでカバーできる。だから人間はそれらロボット達が出来ない事をしなければならない。逆に言えば、それができない人は用ナシ。働いてお金を稼ぐことは出来ない。
手に職を持って働いているナオやぶーちゃんにしても、いつも働けているわけでもない。週になんどか呼び出し(働き手が必要な時に会社側から掛かる)があればいいほうだ。
ベーシックインカムによってもたらされた生活の安定は、一方で金の流動を抑える結果となった。このあたりの経緯は「いったんは定額生活費を金で配ったが、生活費以外の用途で使って破綻する人が増えた為、物資の引換券にした」としてる。
少しでも金を手に入れようと数少ない仕事を奪い合う、今の日本もそうなのかもしれないけども、現代と違うのは高度に進んだ技術によって誰もが死なずに普通に生活できるところだろう。

何故「よろず屋」を提案したのか?

ナオがクリさんによろず屋を提案したのにも理由がある。
第一に、よろず屋という職業そのものはメジャーなものであること。
これは殆どの職をドロイドやアンドロイドが受け持っている中で、痒いところに手が届くお手伝い仕事が必然的に求められてきた経緯がある。
第二に、よろず屋という仕事が、専門的な知識がない人や、逆に、幅広い知識を持つ人に向いているということ。

そもそも何故ベーシックインカムが登場しているのか?

高度に発展した文明は人々から仕事を奪う結果をもたらした。僅かな人々が大量のドロイド・アンドロイドを使って仕事を奪った結果、労働価値はどんどん安くなって金は一部の人々に集中した。
もうお分かりと思うが、その結果、国民の大半はベーシックインカムという制度が存在しなければ、生きていくことすら出来なくなった。
Dコレ世界の日本ほど高度に発展していない文明の現在であっても、これほど仕事が少なくなっているのだ。ナオが生きている世界がどれほど金を稼ぐことが難しい世界であるか想像に難くない。
時間も文明も一方方向にしか進まない。
いつかは人々から仕事というものが消えてしまう日が来る。「働かざるもの食うべからず」はいつしか「働けぬもの食えず」になる。

ベーシックインカムに至るまでの壁とベーシックインカムの問題点

Dコレ世界の日本政府は外交の為に政府という形だけは残っているが、その実は作中で語られているとおり、国民全員参加型政府。
今の日本で表現するとしたら、「2chを国民全員が読み書きしてて多数決を取って決められた案を一つ一つ施行していく」ようなものだ。
本来の民主主義の形にはなっているがそれはそれで様々な問題点もある。それは今回は置いといて、ベーシックインカムが導入「できる」条件の一つとなったのがこの国民全員参加型政府。既存政府は権力が一極集中していたので、ベーシックインカムで一番被害を被る裕福層(既存政府の権力そのもの)の反対があって実現出来ないのだ。
ベーシックインカム導入後も問題はいくつもある。
最初は金で供給していた為、その金を別の用途で利用した結果、一部の国民は生活破綻を起こした。ナオが作中で生活保護をアニメグッズ購入に当てるなどはまだ可愛いほうだ。
また、日本のベーシックインカム制度を求めて他国から不法入国&生活保護享受するものもいる。
作中に登場する「左翼」は表向きは人道的理由で難民などを日本へ呼び込んで、彼らの生活保護の一部を自分の懐に納めている。

現在の日本ではベーシックインカムはありえない

さて、最後に、現実的にありえるのか?について。
まずありえない。
理由として、
第一に、今の日本政府の仕組みは完全な民主主義ではないから。
Dコレの世界で実現されている民主主義はネットワークのインフラが完全に整い、そこに流れる情報がある程度正しく、加えて人々の考えも政治に対して前向き。今の日本ではそのどれも満たしていない。
第二に、文明がそれほど発展していない。
少なくとも既存資源に頼らずエネルギーを得られる事、食料を自給自足できることが最低条件。
第三に、労働価値が十分に下がってない。
十分労働価値は下がっているといわれそうだが、まだまだ下がりようが足りない。一度は国民の8割ぐらいの生活が破綻して国として崩壊するところまでこなければならない。
まずありえないと否定はしたが、では「働かざるもの食うべからず」かと言えば、そうではないと思う。というより、それは大きな間違いである。どんな動物も生きる権利も義務もある。自らの命が脅かされるのなら、他人を傷つけてでも生に執着する。それが動物である。
つまり…働かざるもの食うべからず…と言い働ける者はいつか、働けず食うことが出来ぬ者に命を脅かされる事となるだろう。