11 忍び寄る者 6

「続き、みよっか」
小林がリモコンを取って再生ボタンを押す。
沈み橋を渡ってから村に入ったシーン。そのまま誰もいなくなった民家などを写している。だが映すときもなんというか、まじまじと見るように映すんじゃなくてまるで画面の隅に入るように映している。結果、殆どが俺達の姿と道を映しているようになってしまっている。
「なんだよこれ」
「ごめん…なんか民家とか映してたら何か映っちゃいそうで」
みのりが言う。
「そりゃ気持ちはわからなくもないけどさ、これじゃあ村回っている意味ないじゃん」
「ごめん…」
その時だ。
俺は確かに聞いた。
「なにしてるの?」
という声。
俺は思わず振り向いてしまった。みんなもそうだ。つまりみんなこの声を聞いたんだ。俺は最初、この声の主は春日の家の人だと思った。春日なんて「あ、いや…」とこの声に返そうとすらしていた。だがみんなして声がしたと思われる方向を見ても何もないのだ。そこにはキッチンがあるだけ。
「なに?!」
春日がキッチンの方を凝視しながら言う。
「今聞こえなかったか?」
小林も言う。
「てっきり春日の家の人かと思った」
と俺も言う。
「あ、あたしも…」
とみのり。
守山はキッチンのほうを見ようとしない。震えるだけだ。
「ってか、あたしも、お母さんの声かと…」
そう。その声は年配の女性の声。春日は自分の母親と声の区別がつかなかったのか。
「ちょっとまて、巻き戻してみよう。このビデオから聞こえたんじゃないか?」
みんなもそう思ったのだろう。
再び橋を渡り終わったシーンから続けてみる。
だが声は聞こえなかった。
俺はこの声がビデオから聞こえてくれればどれほどよかったかと思った。声は明らかにこの部屋から聞こえたのだ。しかもだ。これほどまでに「どの位置から聞こえたか分からない声」というのもないだろう。…そう、幽霊の声にはベクトルがないのだ。
俺は一之瀬村で経験した事を思い出さずにはいられなかった。
民家の横を通り過ぎた時の事だ。
俺は確かに誰かに見られている感覚を覚えた。そして「申し訳ない」と思ってしまった。それは例えば人の家の庭を無断で歩くときの感覚だ。本来そこにいては行けない場所にいて、家の主に見つかってしまい、そして、反省する。ちょうど家の主はこんな事を言うだろう。必ずだ。
「なにしているの?」