11 忍び寄る者 5

しかし一つだけ俺の中に引っかかってるものがある。
さっきの新聞の日付だ。
最初はぼんやりと、それが俺の中の記憶のどれと関連するか考えていた。次第に紐ついてきた。最終的にはみのりを見て解ったことだ。
「みのり、このビデオカメラさ、一之瀬村に行く前の日の買ったよな」
「えーっと…うん。そうだった」
「テープもその時だよな…」
「そうだったね…って…え?」
「だな。このビデオカメラもテープも宮元が死んだ日よりも後に買った」
つまり、今の俺の発言は、このビデオカメラが何らかの理由により春日の家の部屋を『特定の日』に映したという可能性を完全に消滅させた。もしとんでもない結論としてあるのなら、このビデオカメラの販売店の奴とか、製造元での誰かが春日の家に不法侵入して撮影をして、その後、ビデオテープもカメラも丁寧に梱包してから店に並べておく。それを偶然にも数ある商品のなかから俺とみのりが選び出して一ノ瀬村で撮影に使って、なおかつ偶然にもノイズの中にだけこの映像が混じった事になる。これほどの偶然の積み重ねは宝くじの当選確率よりも低くないか?
「えっと、その…」
守山がおどおどしながら言う。
「なんだ?」
「あ、うん。僕さ、大学卒業してからずっと無職だったんだけど、そ、そのね、今、あるビデオ制作会社で働いてるんだ。その…」
「呪いのビデオとか言うんじゃないだろうな」
「あ、うん…」
『呪いのビデオ』っていうのは、まぁよくある心霊系ビデオの制作会社。ネットでは殆どが作り物じゃないかって言われるほどヤラセ感否めない投稿ビデオを集めてビデオを制作する。時々レンタルDVDとかで陳列されているのを見かける。本当に心霊のマニアであるのならビデオそれぞれの背景にある事実があるのなら十分楽しめる。だから出所が不明な映像を集めている『呪いのビデオ』はどちらかというとただ怖いのを楽しみたいという人向けのものだ。本物かもしれない…という思いを恐怖を体験して楽しむもの。
「凄いな、あのビデオ制作会社で働いてるのか。あのシリーズは見てるよ」
と小林が言う。
「あ、うん、ありがとう。あ、それでね、その投稿されたビデオの中に『鏡に映る女性の姿』っていうのがあるんだけどさ、その、女性の正面姿が鏡に映ってるんだ。えと、つまり、その…」
春日は相変わらず耳を塞いでいる。まるでそれを確認するかのようにちらっと春日のほうを見てから、守山が話を続ける。
「ありえないんだよね…。投稿ビデオだからさ、その、ビデオ撮影する時はビデオ持ってるわけでしょ。か、鏡に映ってる正面姿の女性があったとしたら、そ、そ、それはビデオ持ってないとダメなんだよ」
「つまり、そのビデオは…ビデオカメラで取られたものじゃなく、人の視点で取られた映像情報をテープに念写したというオチか」
「そ、そういう事。だ、だからさ」
「やめて…続きは言わないで」
耳を塞いでいても聞いていたという事なのだろうか。春日は半泣きになりながら言った。
守山が言おうとした事はこうだ。
俺達の撮影した映像に紛れ込んでいた春日の家の映像は、その視点の位置からすると大人の男性が立って部屋を見下ろしたような形。そして、それが仮に念写的な何かだとして、奇しくも宮元が死んだ日(正確には翌日なのだが)つまり、宮元が部屋の隅に立って見下ろしていた映像が俺達の取ったビデオに紛れ込んでいた事になる。
科学的根拠をまったく無視しているのでこれはとんでもない話ではあるのだが…。そして、もう一つ言うのなら、まだビデオは村に入ってもいないシーン、つまり始まったばかりだという事だ。