11 忍び寄る者 8

シーンは建物の手前でみのりがカメラの電源異常について話しているところだった。
「『どした?』」
「『なんか、突然映らなくなった』」
今思い出した。確か一ノ瀬村でカメラの電源異常があったんだ。あれから帰って検証してみたが同じような症状になっていない。あの場所だけの問題だったのだろうか。
「ん?」
小林が言う。
「どした?」
「カメラの電源は落ちてたんだよな。なんでこれ…」
そういえばそうだ。
カメラの電源は確かに落ちていたのだが、画面が真っ暗の状態で音声だけは拾っているのだ。
「『ちょっと冗談は止めてよ』」
春日の声だけが真っ暗な画面の中に入ってくる。
「電気系統の故障で映像だけが撮れなかったって事なのかな?」
「あの時確かに電源は落ちてんだけどな…」
そんなやり取りを俺達がしていてる間にもビデオは淡々と流れ続ける。真っ暗な画面の中で俺達の会話や周囲の草が擦れる音、風の音などだけが響いている。その時だった。
俺達は一斉にそのビデオの真っ黒い画面に向いた。
あの音だ。
俺達は忘れかけていた。
唸り声だ。
あの日、一之瀬村で唸り声を聞いたのだ。しかもそれはどこから聞こえたか、という分析が出来ない。全方向から聞こえてくるような唸り声。それが今、音声だけの真っ暗な画面から聞こえてくるのだ。
「ちょっと…なにこれ」
春日は再び耳を塞ぐ。
「『みのり、カメラの電源入ってるみたいだぞ』」
「『あ、ほんとだ』」
映像が復活した。
だが相変わらず唸り声は消えない。消えないどころか次第に大きくなっていくのだ。その大きくなっている唸り声…どう考えても現場にいる連中の耳に入っているであろう声が響くなかで、映像の中の俺達は淡々と建物の散策をしているのだ。
「うわぁぁ!」
突然守山が叫んだ。
「なに?どした?」
小林は素早くビデオを停止させて画面をじっくりと観察する。だが特に異常な点はない。
「ちょ、ちょっと前に戻して…なんか映ってた」
「え、なに?」
「なんか…手みたいなの」
小林がコントローラを片手にさっきのシーンへと戻り、今度はゆっくりとコマ送りをし始めた。
あぁ…。
映っている。
俺達は心霊スポット巡りを散々やってきたが、これほどはっきりと何かが映っている映像は見たことがない。しかも、これは俺が今まで見てきた心霊ビデオにあるような何かしらの幽霊のどれでもないパターンだった。
手。足。顔。とにかく、そういう色々なものが集まっている塊だ。
草陰に隠れてはいるのだが想像はできる。これはそういうものが集まっている何かであると想像出来るのだ。
「何、なんなのよこれ!!!」
春日は顔を手で覆い(それじゃ見えないだろうに)叫んでいる。春日が説明を求めているようだったのを感じ取ったのか、小林が淡々とその得体の知れぬものを言葉で表現しようとする。
「手や足や頭や…これは身体もか。人間のいろんな部位が集まって固まっている。今までこういうのは見たことがないな…。いや、見たことあると言えば一度だけ」
「どこで?」
「ん。ゲームの中のモンスターにこういうのがいた」
「あぁ…」
そりゃいるだろうよ。そういう意味では人知を超えたような存在というわけではなさそうだ。少なくともゲームクリエーターはその得体の知れぬ化物を想像してRPGか何かのゲームのモンスターとして登場させているのだから。
ビデオは淡々と進んでいった。
「『ここで宮元君が亡くなったのね』」
「『この階段の上で(唸り声)。階段の所(唸り声)るけど、これがどう(唸り声)最近作ら(唸り声)たいなんだ。宮元が(唸り声)つけた傷だと(唸り声)る』」
もう、俺達の声すらかき消すような唸り声になっていた。