12 一人飲み 3

「お決まりですか?お手伝いしましょうか?」
店員は俺が物色していた服と俺を見比べながらニコニコしながら話し掛けてきた。このお店にあるような感じの派手派手な服に身を包んだ店員。ちょっと化粧が濃い。垂れ目でお世辞にも可愛いとは言えない。俺が「お世辞にも可愛いと言えないなぁ」と思っていたその瞬間に、その女性店員はそれを察したのかどうかはわからないのだけれど、むすーっとした顔になった。
「えっと…どれが似合うかなと思って」
とこれもまた、俺は我ながら女殺しの台詞を吐いてしまったと反省しちゃったりしてる。「あんたは色々似合うでしょうよ、何着ても似合うよぉ、とか言わせたいの?」とでも言いたそうな寂しい顔をしている。
「このワンピとかはちょっと派手で子供っぽいけど、お客様なら…似合うかもしれませんね。ん〜。似合うだろうなぁ(笑)」という微妙な空気が流れる。そして、「試着されてみてはどうですかぁ?」と言う。試着かぁ。俺は男の時から服を買うときの試着っていうのが嫌だった。家以外のところで服を着替えたりするのが嫌なんだよな。それも一度も着たことの無い服とか。
「ん〜」と俺が躊躇っていると、
「試着しましょ!似合いますよ〜」
と強引に俺を試着室へと連れていこうとする。なんか、この女の人、俺に勝てるところがあるのだと悟ったっぽい。つまり、おとなしそうな性格の俺に勝てるのは自分の性格だけだ、っていう感じだ。
試着室で鏡を前にして俺は渋々と着ていた服を脱いだ。よく考えてみるとこの黒のワンピは下着もそれに合わせないとまずい事に気がついた。そして着ている最中にもう一つ気付いたことで、これは下に下着をつけないでワンピースが下着の代わりになるかもしれないという事だ。
「ほほぅ、これは下着も取るのか」
とか言いながら俺はブラとパンツを脱いでワンピースを着なおした。なるほど胸の部分がフィットする感覚がある。でも背中がなんだか涼しい。そういうもんなのかな。
「いかがですか?」
と店員。その声は焦ってはないんだけど、凄く焦らせているように感じてしまう。俺はこういうのもあるからお店で試着するのが嫌なんだ。こうやって焦らせられるから。
「えっと、たぶん、OKだと思います」
OKだと思いますっていうのが買うのがOKなのか試着が終わったのか、自分でもよくわかんない。ゆっくりとカーテンをめくってみる。店員が覗き込んできた。
「おー!似合いますね。似合う〜!」
何か嬉しそうにしている。
「あ、背中、締めましょうね」
店員は強引に試着室の狭い空間に入ってくると、俺の背中側にまわってホックを締め始めた。
「え?ノーブラなんですか?!」と突然言う。
「あ?え?下着つけないんじゃないんですか?」
「多分〜…違うと思いますよ」
俺は慌ててワンピースを脱いだ。この狭い空間の中で素っ裸の俺と店員さんの二人だ。一体何のプレイなんだろうと考えてしまう。女は女の裸を間近で見てもなんとも思わないんだろうか。もしそうならそれだけが唯一の救いだ。でも、そういうわけじゃないみたいだ。俺の裸を(特に胸の部分を見ながら)「ほぉ〜」とでも言いたそうな表情をしている。
「スタイルいいですね〜」
これはお世辞でも嫌味でもなく、本当に関心した風に言ってくる。
「は、はぁ」
「おっぱいも、大きくもなく、小さくもなく、美乳という感じで…」とか言いながら、着かけたブラの上からおっぱいに手をぽんと当ててくる。これは女性の間でも失礼な行為じゃないのか?まぁいいか…。
「下着の色も合わせたほうがいいかもですね?」
やっぱりそうか。