12 一人飲み 2

マユさんが何度か話をしてくれたのは、ここいら(デリヘルの待機部屋があるマンション)の近くに歓楽街があるし、そこで朝まで開いている飲み屋もある、って話だ。マユさんは行かないみたいだけど、よくこの店に勤めてる他のデリ嬢が行くらしい。
デリ嬢は俺とかマユさんみたいに昼勤務ってのは珍しくて、基本は夕方出勤の明け方帰り。そこで中のいい女の子同士で「ちょっと飲んでいく?」って話になって朝まで開いている飲み屋に行くのだとか。
で、飲み屋も飲み屋でそれを承知しているからか、いちいちデリ嬢の年齢確認はしない。実はデリ嬢は20行って無い奴もいるから、警察に見つかったら確実にアウトなんだけど、朝だから警察もウロウロとしないのだ。
で、俺は貯まったお金の使い道として、どこかで美味しいものを、美味しいお酒と一緒に楽しみたいと思ってたのでちょうどいいスポットを見つけたと思った。
駅の近くの高架橋の下に細長いビルが並んでいる。そこにチェーン店の飲み屋がある。「飲み食い処・葉民」とかいうお店だ。オープンは17時で閉店は翌朝の5時。まさにデリ嬢どころか水商売関係の人御用達の飲み食いどころだ。
ターゲットはそこに絞って、俺はさっそく準備に取り掛かった。準備って行っても、なるべく周りの風景に溶け込むような感じにしたい。俺の普段着はちょっと俺の趣味も入ってどっちかっていうと「可愛い」服なのだ。学生に思われてしまう。セクシー系の服で風俗嬢ですよとアピールしないときっと警察に捕まってしまう。
というわけで、俺はその日、生理休暇を貰って(生理は来ないんだけど、生理こないって変だと怪しまれるので月に1度は休暇を取ってる)ショッピングモールに足を運んだ。
平日の昼間はさすがに学生の姿はない。だから学生が足を運びそうな店には客はあまりいなかった。それが唯一の救いだ。身体は女でも頭の中は男だから、そういう店に堂々と足を運べない。男が女の服を買っているって誰も思わないだろうけど、俺はそう思ってしまうからだ。
人はあまり居ないが、ただ、カップルやら一部の同業者っぽい派手派手セクシーな格好の女が来てた。化粧臭い店内を臭い臭いと手で仰ぎながら、俺はセクシー系な服を探した。ある程度俺の趣味的なものは入れるつもりだけど、しつこく趣味を入れるとコスプレみたいになるから注意が必要だな。
俺は黒のミニスカのワンピースと、ショートパンツとタンクトップ(上からシャツを羽織る)奴を見比べながらどっちの系統がいいか考えていた。
さっきから視線が気になっているんだけど…やっぱり店員が来た。あぁ、俺って女に話し掛けられるの慣れてないんだよな。