12 一人飲み 1

水商売ってなんで水商売って言うのだろうかな、考えたことはない。
俺と同じくデリバリーヘルスで働いてそれで得た金で子供を育ててるマユさんにそれとなく聞いてみた。
マユさんも知らなかったみたいだ。
説として一つは湯水の如くお金を得ることが出来るけども、湯水の如くお金を使ってしまう(衣装代だとかで)からだとか。もう一つは日本ではそこら中にある水みたいに、使う方も貰う方も全然金銭感覚がなくてバンバンお金が動くっていう意味で。
とにかく、俺はデリヘルの仕事に慣れ始めた頃、俺を指名する客が多いのか、お金はどんどん貯まっていった。必死でバイトしていた頃が嘘みたいだ。女ってこんなに稼げるのか…とまでは言わない。同じ女でもマユさんは指名はあまりないみたいだし。女で可愛いかったらこんなに稼げるのか、かな。
あえてケチな事を考えないようにした。
コンビニでは値段とか見ないで必要なものを買うし、服もそれなりに人が見て仰天しないような女の子の服を選んだ。まぁ、普段着として1セット、仕事着として1セット。店長からは仕事着はもうちょっと欲しいとか言って来たから、「じゃあ店長が買ってくれ」と言ったらもう言わなくなった。俺の中身が女なら店長が言うまでもなく、どんどん派手な風俗嬢衣装を買うもんなんだろうな。よほどに俺は着たきり雀らしい。
貯まった金で何かを買おうとは思わなかった。
車も欲しいと思ったこともある、免許も欲しいと思ったこともある、パソコンとかも…。でも今はそれほど欲しいと思わない。っていうのも、やっぱり以前、生活に苦しくて死にかけた事が、あの傷が言えないってことなのかな。冗談抜きにして今だに俺は警戒してるみたいだった。無意識のうちに。「ひょっとしたら、仕事を無くして金がなくなって、また同じ目に会うんじゃないのか?」って。
それでふと、ひとつだけ使い道を考えてみた。
それほど高くなくて満足出来る事…。つまり、どっか美味しいものを食べに行こうかなって思った。ふと、どこかにふらりと旅をしてみたくなった。