26 ずっとこのままでいたい

部屋に戻ってきて最初にやることはベッドに飛び込む事。
それは「さあ、セックスを始めましょう!」という意味じゃなくて、お酒が身体に回ってきて眠りたいという欲求があるからなのだ。さっきからずっと心地よい疲れが身体を覆いつくしている。片山も同じみたいで、俺と片山は二人して同じベッドに寝転んだ。
そして片山は肩やら背中やら、肌が露出している部分に優しくキスをしてくれる。くすぐったくて気持ちいい。お返しに俺は自分の太ももを片山のふとももの上に乗っけて、それでマッサージをしてあげる。こうするとチンコが立ってくるのだ…が、立たない。アレ?なんで?って疑問に思うのは女性のセックス初心者にありがちな事。俺は元男なのでどうして立たなくなってるのかがよく判る。
以前、俺が会社の飲み会で上司に無理やりお酒を沢山飲まされた時の事だ。無事飲み会は23時に2次会が終わり、いや無事に終わったなんて話じゃあないな、『最悪な事に』23時まで飲み会が終わらず、俺はタクシーで家まで帰った。
そして普段俺がいつもやってるオナニーをしようと思ったのだ。会社の飲み会があっても俺の予定を狂わせるわけにはいかない。日課のオナニーは毎日欠かさずやるのだ。
風呂で身体の疲れを癒してそしてパソコンの前に座り、パンツを脱いでティッシュを用意して、さぁ今日の楽しみの開始、と始めたものの、普段ならそろそろチンコがびんびんになっていい頃なのに、まるで外国のエロビデオに出てくる男優みたいに、ナヨナヨチンコのまま。チンコの挙動を不信に思いながらもそれでもしごく、しごく、イケッ!イクんだ!全然…。何このチンコ…。
そのまま30分ぐらい粘った。途中、アルコールが頭に回ってるせいか頭痛がするし、腕は痛くなるし、チンコも痛かったんだが、段々痛みが快楽へと変わって…はこない。1時間ぐらいかけてようやくフィニッシュ。やっと終わったという達成感もあったが、情けない気分になった。そりゃ年齢的にも20代後半だったし、それが体力の衰えだとか思うよな。
結局、アルコールが原因だとわかったのは後の事だった。つまり、男でも女でもそうだが、アルコールが身体に回ると性的にダメになるという事だ。
「なんか変だな…いつもならそろそろビッグになるのに、全然元気ない」
なんて片山が心配するのも無理は無い。
「アルコールが入ると立たなくなるみたいだよ」
「そうなんだ」
俺は片山の上に馬乗りになって、それから手で彼の身体をマッサージし始めた。たまにはセックスなしでもいいんじゃないのかって思ってたわけだ。
「せっかくホテル来たのに、残念だな。ってか申し訳ない」
「いいよ別に」
申し訳ないって気持ちがあるんだと思う。片山は俺の身体を、特に性感帯の部分を重点的に触ってきて、せめて手で気持ちよくしてあげようって気持ちなのかな。実は俺もアルコール入ってて身体の感覚が鈍くなってる。つまり片山が普段してくれるような愛撫では気持ちよくならない。
もういいや、気持ちよくなれなくても。
俺は身体を片山の上に重ねた。海外の映画では夫婦は必ず一緒のベッドに寝るようだが実はアレは実際にはないんだよな。あくまで夫婦の理想像を映画にしてるだけで日本と同じ、ベッドは同じだったとしても身体を重ねて寝るってのは稀らしい。服がざらつくので脱がしてそして俺もドレスを脱いだ。半裸の状態で重なってお互いの皮膚の感触を楽しむ。人の肌はすべすべしてるのは触れ合うのに丁度いいんじゃないか。どうして普段からそうしなかったんだろう?なんて事を頭に浮かべながら。
「気持ちいい、片山ベッド」
「肉布団かよw」
「なんか温かいよね」
「うん」
本当は外は夏だけどクーラーがよく効いていて、部屋の中は涼しいを通り越して寒い。その寒いなかでお互いのすべすべの肌を擦り合わせていくのだから気持ちいいのだ。
「ずっとこのままでいたいね」
「うん」
心地いい感じにお互いの体温が伝わってきて、それによって睡魔が襲ってきた。後はもう望むがままに片山の太い腕の中に抱かれて眠った。途中で肌寒くなって起きたら、よく考えたら素っ裸でお互いが重なるだけだったので、布団を上から被せて眠ろうと思う。再び片山の腕を枕にして眠った。
いつしか朝になってて、俺は半分起きて半分寝てる状態になっていた。眠りが十分に足りてると朝夢をみたり、それから起きたり寝たりを繰り返すのだ。その時に、片山の唇らしき感触が走ったのでびっくりして目を開けたら、あいかわらず俺は彼の腕に抱かれてて、目をぱちくりさせて片山のほうを見てた。
「おはよ」
と片山が言うので、俺も最初は驚いてたが、
「おはよ」
と返して、片山の唇にキスした。
これがずっと続けばいいのに、などと思っていた。ずっと続けばいいのに、っていうのは心のどこかにいつか終わってしまうんじゃないかって思っているのかも知れない。終わってしまうなんて根拠はどこにもないのに。