1 七海と日和 1

親父が離婚してから1年の事だった。
ついこないだまでは仕事の帰りがやたらと遅くなったり、休みの日に朝から居なかったりと薄々何か裏でやってるなとは思っていたけども、まさか結婚を考えているなんて思いもしなかった。
けども、俺は結婚には賛成していた。
俺がXX病にかかって女性化してから、2ヶ月立たないうちに離婚となった。
何度も何度も、あの時の離婚は俺のせいじゃないって言ってたけど、タイミング的にね。
お袋の意見は結局聞けなかった。
最後に見たのは弁護士?みたいな人と一緒に喫茶店に居た光景だったな。話してるのはお互いの弁護士だけ。俺も親父もお袋も、お前等本当に家族だったのか、って言うぐらいに無口だった。
その話は置いといて。
俺と親父は新居へと引越し。
相手の女は、子供が産まれてから直ぐに離婚して、ずっと仕事の片手間に子供を育ててきたっていうキャリアウーマン。会社でも結構な地位に来てるらしい。だから新居ってのがボロイアパートの一室というイメージが俺にはまったく無かった。
案の定だ。
一戸建てかよ。すげぇ。
「七海、前にも言ったけど、お前のお母さんとなる人には一人息子が居る。仲良くしろよ」
「ふーん」
「お前よりは一つ年上だぞ」
「あっそ」
「まぁ、同じ学年になるがな」
「同じ学年って、同じ学校なの?」
「そりゃそうだろ」
「え?なんで?」
「なんでじゃないだろ。お前が選んだ高校だぞ」
「いや…ってか、教えといてよ!」
「はぁ?教えてたら別の学校を選んでたのか?」
「当たり前じゃん!二人揃って登校しろっての?」
「二人揃って登校するのが何が悪いんだ?俺も母さんと…いや、前の妻とは高校の時は二人揃って登校してたけどな」
「いや、それと一緒にすんなよ。ワケ有り兄弟が揃って学校に登校して、変な噂立ったらどうすんだよ。離婚だの再婚だのが珍しいような学校だったらどうすんだよ」
「今時、離婚だとか再婚だとかはよく聞く話だけどな、まぁ心配すんな」
と、親父はチャイムを押す。
トタトタと足音が聞こえる。
相手の一人息子ってのが出てくると思って身構える俺。
扉を開けたのは親父の結婚相手。俺のお母さんになる人だった。
顔は…まぁまぁ可愛い。いや、可愛いって言うのは失礼か。
でも親父は女を選ぶセンスはあるんだな。この人が、いや、この人とか言ったら失礼か。お母さんがこんな感じの整った顔なら、息子も随分と美形なんじゃないか。でも、その美形息子が結婚相手に挨拶に来ないってどうなのよ。
「こんにちは」
親父の顔がほころんでる。
二人でイチャイチャと話をし始める。
ふと、息子の話になる。
「今日は息子さんは?」
「ああ、すいませんー。2階に居ます」
え?挨拶にも降りてこないのかよ。失礼な奴だな。
「七海。挨拶に行ってきなさい」
俺がかよ。
「はぁ…わかった」
しぶしぶ2階へと上がる。
廊下の突き当たりの部屋に「日和」と書かれたプレート。ノブに掛けられてる。
ひより?変な名前。なんて呼べばいいんだ。ひよりお兄ちゃん?
「こんにちはー」
俺はノックをせずに扉を開けてしまった事に今さらながら後悔した。
俺は前まで男だったから、男の気持ちはわかっているつもりだったんだ。
「ちょッ!てめぇ!ノックしろっていつも言ってんだろが!」
椅子に座ってズボンとトランクスを下げて、つまり、下半身裸でチンコを掴んでる、つまり、オナニーをしている最中の「日和」と呼ばれてる男を見てしまった。
「って、うぉぉッ!」と日和はトランクスを引っ張り上げるも、あげきれなかった。
「ああ、ごめん」
扉を閉めた。
薄暗い部屋にパソコンのディスプレイが明るくて、美少女ゲームのHシーンの画像が表示されてた。部屋の壁の至る所にエロゲのヒロインと思わしき美少女のポスター。それからベッドには抱き枕。あと床に散らばってる箱はどれもエロゲーの箱。その間にティッシュが沢山落ちてた。
「はぁ…」
『アレ』をお兄ちゃんと呼べってのか。