5 外食に行きましょう 5

眠っていたのだと思う、のだが…。
目が覚めると、まず最初に目の前が真っ暗。いや、ドアップで日和のまぶたが見えて、それから唇に感触があり。温かい鼻息が頬に掛かる。
「んんッ!」
ビックリして身体を動かそうとするが動かない、左腕を日和が掴んでいるからだ。けれども、俺がビックリした0.1秒ぐらい後に日和もビックリして、すばやく俺から唇を離した。
それから奴が何をしたかというと、何事も無かったかのようにゲームを再開しやがった。
そのあまりにも素早く美しい撤退を見せられたら、この状況においても感心してしまう。この野郎は本気で何事もなかったかのように振舞おうと、いや、振舞っていればこの事件を誤魔化せるとでも本気で思っているのだろうか。
「いまキスしてなかった?」
「いえ」
「してたでしょ?見てたよ」
「いえ。してません。多分夢でも見てたんだと思うよ」
ほほう。そう来るか。
「あー夢かぁ…嫌な夢だった」
5秒後。
俺は素早く日和の首に腕を回してヘッドロックした。
「ちょ、まて、ま、ぐ…」
すぐに呼吸困難に陥る。
こう見えても男の時はこのプロレス技で後輩を失禁させたという輝かしい功績がある。ちなみに呼吸を止めずに欠陥だけ塞いで脳への酸素供給を止めて失禁させる方法もある。
日和、タップする。
それから素早く呼吸を再会する日和。
「ぐッはぁッ!てめぇ!兄貴に対して何をするんだ!」
「妹にキスするような奴は兄貴じゃねぇ〜!」
ゆら〜っと立ち上がって日和が言う。
「ほう…この俺とプロレス技で勝負しようってか?身の程知らずめ」
「なんだと、やんのかてめぇ」
俺はもう一回ヘッドロックしてやろうと日和の首に腕を回した。いや、回そうとした。だが、よく考えたら身長が180はあろうかという日和の首に俺の手が簡単に回るはずもない。
すぐに俺の腰辺りに手を回した日和によって長いすに寝転がらされる俺。
だがそれが俺にとってのチャンスなのだ。
日和の上に馬乗りになる。レスリングでいうところのマウントポジションを取った状態だ。もうこうなっては日和は手も足も出まい。
「ふふッ、バカめ」
日和がそう言った。バカめだと?
そう、またしても俺はミスをおかしてしまったのだ。
マウントポジションというのは体重が互角か、それ以上でなければ意味がないのだ。そう、俺の体重は残念ながら軽い。日和が片腕で持ち上げる事も、ひょっとしたら可能かもしれない。
「うわッ!ちょっと!」
日和の腕が背中に回って、思いっきり自分のほうへ抱き寄せてきやがる。これはヤバイ。
(んチュ…)
「んッ!んーッ!」
日和の野郎、今度は舌を突っ込んできやがった。
「ぷはぁ…」
やっと唇が解放されると、涎が糸を引いていた。
「ふぅ…降参するか?」
俺の涎まみれになっている日和の唇。
マウントポジションを取りながらも腕を封じられて、唇まで封じられるという失態を犯した俺は、もうなす術が無いという事実を心ではなく身体が感じ取ってしまい、「こうさん…」と言った。
疲れた。