7 突然ですが雪山に行きます 3

ロープウェイ?みたいな奴でかなり高い位置まで上がった俺と日和。下から見たらそれほどでもない高さや角度だった坂も上から見下ろすと恐怖しか沸いてこない。
「ちょっと…これ初心者には辛くないかな」
「なんだよ、ビビってるのかよ、ったく女の子だなぁ」
中身は男なんですが…。普通に怖いです。
「いいか、スキーってのはハの字が基本なんだ。ハの字」
「ハの字?」
「うむ。スピードを落とすときは板をハの字でブレーキ。スピードを上げるときは板を真っ直ぐにする。カーブは板を真っ直ぐにして身体を倒すんだ」
「ふーん。板を真っ直ぐにするのは何の字?」
「真っ直ぐは真っ直ぐだよ、川の字?」
「川って3本線があるけど」
「そりゃ、左右は足で真ん中のは」
「いや、いい、もういい」
「女の子ならクリちゃんだな」
「いいから!もういいから!」
俺はスノボを使ってスキー板の向け方について無理な説明をする日和におずおずと従いながら、足を言われとおりハの字にしてみた。
「あ〜違うな。もっとハの字にしないとブレーキ掛からないぞ」
「こう?」
「違う違う」
日和は俺の後ろに立って、背後から抱きしめるように…ってまたかよ!
絶対にこれをやるのが目的だろう。そのまま俺の腰に手を持ってきて立ちバックの体位になって、
「お前ウエスト細いなぁ」
「ウエスト関係ないだろ!」
俺は日和を振り切って、生まれたばかりの小鹿が立とうとする時みたいに足をプルプルさせて滑ってみた。確かにハの字にするとスピードが緩くなって、真っ直ぐにすると嫌になるぐらい速くなる。なるほど、そういう事か。
ある程度練習してみて、ようやく俺は余裕が出てきて日和が何をしてるのかを振り返ってみることが出来た。
あいつはスキーは出来るみたいだから、ひょっとしたら美しくスノボをやってるのではないかと、そんな姿を想像したら…そこには生まれたばかりの小鹿のように足をプルプルさせてる日和の姿があった…。
「何やってんの?」
ゆっくり近づきながら言う俺。
「身体にスノボを叩き込んでるんだよ」
「叩き込むときに震えるの?」
「いや、これが、どうやったら滑ったりとまったり出来るのかと」
「ハの字にすればいいんじゃない?」
「どうやってハにするんだ!」
「ノの字?」
「この際何の字なのかどうでもいい。スノボはさすがにハイレベルだという事を俺はいま体感している」
これじゃスキーも出来るのかどうか怪しい…。ふら付く身体を支えようと日和がとった行動は、俺の両方の肩をガシっと掴むことだ。
「な、なに…?」
「ちょっと、これ、普通に立つことすら難しいんだが?」
「立てないなら転んでればいいじゃん!」
日和の震えがこっちまで伝わってきて、スキー場のど真ん中でカタカタと不自然な震え方をしている奇妙な二人がそこにいた。
そしてそれだけじゃない。
次に日和は冗談なのか本気なのか、思いっきり顔を俺の胸の谷間にうずめてきて、腰に手を回して抱きしめてくる。それを自分でやってきてるくせに「んーっ!んーっ!」とか苦しそうな声を上げて、今度は呼吸困難で震えているのだ。
「何?なんなのよ!」
俺はこれ以上日和に付き合ってられないと、奴の肩を掴んでゆっくりと突き放した。まるでスライムが身体から離れていくように、どろーっと日和は俺の身体から離されて何故か俺のスキーウェアのファスナーと、中に着てたトレーナーのファスナーがオープンになって、
「おいおいおい!なんでそうなるんだよ!バカ!!」
俺は思いっきり日和を突き飛ばした。