8 早速ですが遭難しました 1

木の枝に雪が積もっていたお陰で擦り傷すらない。
「せ、せーふ」
下になっている日和が言う。ちなみに俺は日和の上に騎乗位よろしく跨っていた。とりあえず死ななかったがこの状況はセーフとは言いがたい。
「よし、日和、ちょっと反省会しようか」
「いや、俺、悪くねーし」
「日和が抱きつかなければこんな事にはならなかった」
「お前が大人しく抱きつかれてればこんな事にはならなかっただろうが」
「どこの世界に突然抱きつかれて大人しくしてる女がいるんだよ」
「まぁ、いいじゃないか。過去のことよりも未来の事を考えよう」
「…未来の事を考える時にも過去の失敗から何かを学ぼうよ…」
上級者コースは上級者を前提に作ってあるのか、本来ならコースアウトしないように設けてある策が設定されていないみたいだ。俺達は雑木林の中をつききって、あげくに崖を真っ逆さまに落ちたらしい。でも、例え上級者と言えど俺達のようにコースのスタート地点で二人暴れてそのまま素早く進む塊となって崖を落下する奴がいるかもしれない。実に安全対策が不十分だ。
「ってか、ここどこなんだよ」
日和が雪の中に埋もれたスノボを引っ張り出しながら言う。
「とりあえず下へ下へ進めばどこかに出るんじゃないの?」
と俺は言っておいたが、さて、どこに出るのかは判らない。この山の反対側は詳しくは知らないけども県境で山だったはずだ。山を降りたら山だったとなるとそれは遭難を意味する。やっぱり現実はシビアだ。しかも悪い事にさっきから雪が縦ではなく横に降ってくる。これって吹雪っていうんじゃないのかな。
「とにかく、下へ降りようか」
日和を前にして吹雪の中を進み始めた。
降りている感覚はあるけども先にスキー場の何かが見えるわけでもない。本当にこっちであっているのかな…。不安になってきた。横殴りの雪が視界を奪っていく。ちょっと前に日和らしき影があるのがかろうじて見える。
「クソ、こりゃやべぇぞ」
「遭難してるんじゃんか」
スキー場から僅かに外れただけで遭難?
「いや、そんなに離れてないはずだぜ」
暫く歩いていたら、目の前の巨大な雪の塊が現れた。いや、これは建物?不気味だ。視界がほぼゼロの中で突然表れる建物は不気味だ。どうも別荘みたいな感じの建物だ。
「ちょっとここで休憩していくか」
「入れるの?」
「わからん」