9 シングルマザー 3

その女性は名前を「マユ」と名乗った。源氏名だろう。
ペラペラとよく話すタイプじゃないみたいだ。かつぜつも悪い。女同士だとよく話す印象はあるけど、違うみたいだ。スローペースで時々テレビなどを見ては、ふとまた話す。
「どうしてこういう仕事始めたの?」
「ちょっと生活に困り始めて。親が出て行ったんですよ」
「え、何で?」
「なんでですかね〜…」
「『一人暮らししなさい』ならわかるけどねぇ。なんで出て行くのかなぁ。子供置いて逃げるなんて信じられない。今でも親とは連絡つかないんでしょ?」
「えっと…。まぁ、そうですね。連絡つけようとは思わないけど」
普通の事情があったわけじゃない。俺がXX病になって女性化した後、親は俺を子供だと思えなくなったのだろう。原因はそれが全てだと言い切れないが、ある種の起爆剤みたいなものになっていた感は否めない。
「親って、両親が同時に逃げちゃったの?」
「いえ、父は離婚していませんでしたから。母と二人暮らししてて、それで」
「そっか…」
マユはテレビのほうも見ずに俺のほうにも目を向けずに、床を見つめていた。なんとなく気まずい空気が周囲を包む。思うところがあるのだろうか。
「実はあたしもねぇ、離婚したのよ、最近。子供一人育てていく為に最初はバイトしてたんだけど、全然生活費足りなくてね。借金してて、もうダメってところまで来てさ、今の仕事始めたのよ」
「そうなんですか…」
「(ため息をついたあと)女は身体を売ればいいとか誰かが言ってたけどねぇ。売っても買ってくれる人が居ないんじゃダメなんだよねぇ。あたしってあんまり、顔とか自信ないし」
「そんな事は、ないと…思いますよ」
ブスまではいかないにしても男の俺から見たら普通の顔だ。ただ風俗で働く女性にしては地味だ。ある意味それはマニアが喜ぶんだと思うけど、一方では地味な顔がおばさん度を上げてしまう可能性は秘めている。