9 シングルマザー 4

離婚して子供を育てる為に風俗をして。
子供を育てる事が大変かどうかは育てた人じゃなきゃ判らない。俺は育てられたほうだから、女性が一人で育てていくという意味はまだ理解できていないのかもしれない。なぜならマユさんが自分の子供を育てる為という理由にしても、風俗で稼いだ金で育てる事に違和感を覚えたからだ。
とは思いつつも、俺は一人で暮らしていく時に瀕死の状態に遭遇している。どんな手段を使っても生きていく、という事が他のどんな綺麗事よりも綺麗である事を俺は知っている。マユさんも彼女の子供も、死んでしまえばそれで全てがダメになるのだから。
「不景気だし仕方ないですよ」
とりあえずマユさんの顔やルックスには触れずにそうフォローする。
「だよねぇ」
「わたしもこの仕事をする前はお風呂屋さんで掃除のバイトとか、工場の流れ作業とかしてたけど、仕事中に過労で倒れてやめました。家で熱出して寝込んでて、もうダメだと思ったんですよ」
「そうなんだ。大変だねぇ」
「だから別にお金を沢山稼ごうとかじゃなくて、生活できればそれでいいんですよ。死なない程度に」
「結婚とか考えていないの?」
「結婚は…出来ないかなぁ」
まぁ、中身が男の俺が誰と結婚するんだという話だけどね。
「えーっ。なんで?絶対いい旦那さん来るよ」
「ん〜…」
いいお嫁さんが着てくれたら嬉しいんだけど。
「それで、えっと、あ、まだ名前聞いてなかった」
「ナナです」
「ナナさんね。ナナさんは美人さんだからさ、絶対お客さん沢山取れるよ」
「そうですかね」
「ナナさんが昼勤務ってわかってどうしようかと思ったから」
「え?」
「ライバル出現って感じで」
「そんな事ないですよ…。それにデリヘルってここだけじゃないし」
「でもナナさん、女の私が言うのもなんだけどさ、たぶん、この街でトップだよ。だって風俗してるように見えないもん」
そういえば、俺も自分の顔を鏡で見始めてから、テレビに出てくる女優や芸能人、それからアイドルなどの顔がそれほど美人に見えなくなった。そんな顔でもテレビに出れるんだ、と思うようになった。別に自画自賛ではない。XX病にかかった男性が女性化した後は現実にはありえないぐらい(気味悪いぐらい)均整の取れた顔になるのだ。
「それに、ナナさんの存在知ったら悔しがるだろうなぁ」
と、嬉しそうな顔をするマユ。
なんだろう?