10 平日の来客 1

俺がテクニックについて考えていると突然俺の携帯がうるさい音を立てて鳴り響いた。着信音は購入していらい変えていないので、デフォルトのリンリンリンするあの音のままだ。
「あーびっくりした!」
とマユさん。
「ごめんなさい」
俺はそう言って早速携帯に出ると、向こうは店長の声だ。
ご指名があったとの事だ。それを察してか、マユさんがちょっと嫌味ったらしく音の出ない拍手をしている。電話が終わってからも「よかったじゃない。いってらっしゃい」と乾いた台詞。
「す、すいません。行ってきます」
俺はちょっと緊張しながらも部屋を出た。
部屋を出てマンションの前の道路に止めてあるデリ車に乗る。
様々な事が頭を過ぎる。
ホテルに到着し、客の待っている部屋の扉を開けるまでのこの時間がこの仕事をしていて一番緊張するものだと、まだ2回目でありながらも既に悟っている。たぶん俺が考えている事はアタリだろう。
美東はちょっと前に来たので、また来る事は無いだろう。また来たとしたらそれは親の財布からくすねているか、借金をしたか、それとも友達から借りたか…最悪の場合、何か犯罪を犯したか。どっちにせよ、自分の稼いだ金で来なかったらマズイ。美東が来ないとすると、初対面の人っていう事になる。やっぱりヤクザだろうか。平日の昼間っからこんなのを利用して、金も持っているのはヤクザぐらいなもんだというのは俺の乏しい知識の一つである。
あと、テクニックだ。
俺は何一つテクニックを持ち合わせていないのだ。これではマユさんが嫌っているお店のトップの若いだけの女達と同じではないか。かといって、この僅か15分足らずの時間で何かテクニックを磨けるわけでもない。
焦っているうちにいつの間にかホテルの部屋の前に居た。