10 平日の来客 2

息を整えて軽くノックをする。
暫くしてから扉がゆっくりと開く。
ひょこと顔を覗かせたのは20台半ばの男性だ。スーツを着ている。昼間のこの時間だ、まるで会社から抜け出してきてラブホテルに来ているようにすら思える。そしてその態度もどこか落ち着きの無い、周囲の視線に目を光らせている小動物のような感じだ。やっぱり会社を抜け出してきたのか。
「え…ナナさん?」
「あ、はい」
「えええ!」
「?どこかでお会いしました?」
「いえ…滅茶苦茶、美人の子が来たなぁと思って…」
「は、はぁ」
部屋に通される。
そのサラリーマン風のスーツ姿の男は、やっぱり何か資料が沢山入ってそうなバッグをテーブルの上に置いて、そのうちの一つを広げてみている最中だ。仕事してるの?ラブホテルで?
「えっと、何をすればいいのかな?」
これはサラリーマン風の男の台詞だ。
わざわざホテルに呼んどいて何をすればいいのかを聞くのか。あぁ、そうか。デリバリーヘルスが初めてなのかな?
「まずは時間を決めてもらって、それからお金を払ってもらって、それでエッチな事をします」
俺は淡々とこれから起きるストーリーを話した。
「あ、ああ、そうか、えっと、時間か、時間だよね。えっとじゃあ…よろしければ2時間で」
「はい。それじゃあ…お金を」
サラリーマン風の男は震える手で札を取り出して俺に手渡す。
おいおい、それは汚れた金じゃないだろうな?後で警察のお世話になるのはごめんだよ?
店長に時間の連絡を入れて、そこから開始である。
それまでにもこの男、そわそわしてる。やっぱり何かやらかしてるのか?この年齢で風俗が始めてなのか?そういうもんなのかな。田舎だからそうなのかも知れない。とにかく、変である。