20 ゾロ目の宿命を背負う男 2

「好きな場所に座ってくれ」
とかクリさんが言うんだけど、好きな場所ってじゅうたんが敷いてある床かベッドぐらいしかない。一方でクリさんはネット端末の置いてある机の椅子にどっかりと腰を下ろしてまさにお客様を見下ろすような感じでいる。
「ああ、どうも」
感じずにはいられない違和感を背中にしょいこんで、その男の人はじゅうたんのところに腰を下ろした。僕はいつものようにベッドのところに胡坐をかいて座る。え?ベッドに座るのだって十分偉そうだし見下ろしてる感じじゃないかって?…まぁ、床に誰かが腰を下ろすと座る場所がなくなるからさ。今はなんだか散らかっててね。
「ああ、わたくし、佐藤と申します」
佐藤と名乗る男の人は名刺を差し出した。クリさんはそれを受け取る。…でもクリさんの名刺は差し出さないのね。っていうか、名刺なかったか。
「それで、どういう用件だ?」
クリさんがいつもの調子で質問する。
「ああ、実はですね…。本当にくだらない事かも知れないのですが、ずっと前から…どれぐらい前からでしょうか、恐らく物心つくころからです、私は時計を見た瞬間にゾロ目になっている事が多くてですね…。例えば、ふと時計を見ると11時11分11秒だったりとか…」
「本当にくだらない事だな…」
ちょっ…。また余計な事を…。
「クリさん。それは言わないお約束でしょ」
「言うお約束じゃないのか?」
「別に漫才しに来てるんじゃないんだから。この人は」
今の会話で少しでも緊張が解れたんじゃないかと思って佐藤さんを見たけど、相変わらず気難しい表情はそのまま変えずだった。クリさんは緊張をほぐす為にそんな話をしたんじゃないんだけどね。ただ、どうやら冷やかしに来たってわけじゃないらしい。スーツ姿でかしこまって、オマケに名刺までちゃんと渡して『冷やかし』でしたなんていうのもなんだけど。
「見た時間がたまたまゾロ目になっているというのはよくある事だ。人は見て、脳でそれを認識して初めて『見た』事になるのだ。つまり時計が視界に入っていても最初は認識していない。ただそこにゾロ目が並んでいるので脳がそれを感知するのだ」
なるほど。さすがクリさんは物知りだなぁ。
「それはわかってはいるのですが、お願いしたいのは本当にそうなのか、検証したいのです」
「と、いうと?」
「私の行動を全てロギングして欲しい」
「ふむ…なるほど」
ロギングというのはコンピュータ用語の一つで、処理一つ一つの結果をログ(記録)として残していく事を言うんだ。つまり、この人は自分の時計を見るという行動を全てデータとして吐き出させて、それがどのタイミングで行われているのか調べるという事なのかな。
クリさんは暫く考えてから、
「よし、いいだろう。ただちょっと頭の中にプログラムをインストールさせてもらうがな。心配ない、後で削除しておく」
と言うわけで僕とクリさんは佐藤さんの行動を外部…つまり僕とクリさんの視点から観察した佐藤さんのロギングと、内部…佐藤さんの視点でのアクションを起こそうとした、または起こした事のロギングをする事になった。