20 ゾロ目の宿命を背負う男 6

トイレについて僕が服を脱いで背中側を確認してみた。
ホックが外れ掛かってるというのは僕が止めるのをゆるくしてたとか、一つしか掛けてなかったとかじゃぁないんだ。針金ごととれ掛かってる。まずいなぁ、これ。買い換えないと。まぁせっかくモールに着たんだから下着店によって買うかな。男性の佐藤さんは入りづらいだろうけどしょうがない。
しぶしぶホックはそのままにして何とかブラウスのボタンを留めただけで誤魔化した。でも相変わらず背中の違和感はそのまま。
それから牛丼店に戻る。
「おまたせーっ」
「注文しておいたぞ」
「お、メガ牛盛?」
「うむ」
「わーい♪」
クリさんは普通の牛丼(をつゆだくで)、佐藤さんはこれもまた普通の牛丼だ。みんな粗食だなぁ。僕なんて普段は芋ばっかりだからここぞとばかりに味が濃いものを注文しちゃうけどさ。それにしても僕の牛丼はまだかな。やっぱり大きいだけあって作る時間が掛かるとか?
「お待たせしました」
おお、待ったよ待った。って…え?
ドンッとテーブルの上に置かれたのはメガ牛盛の1.5倍、いや2倍はあるかもしれない、超特大サイズの牛丼だ。
「ちょっ!これなんですか!」
「メガ牛盛早食いチャレンジバージョンです」
「いや、早食いなんてチャレンジしたくないし」
クリさんも驚いていて、
「これの事じゃなかったのか?」
「違うよ!メガ牛盛っていうのがあるじゃん!、これだよこれ、このメニューの奴」と僕はホログラムに浮かんでいるメガ牛盛を指差しながら言う。
「ん?他の牛丼とサイズは同じように見えるが」
「いや、サイズは確かに同じ様に見えるけどさ(と僕は隣にあるサイズ比較用のタバコを指差して)ほら、これ。このタバコ見てよ。ちっちゃいじゃん、タバコ。これと比較して大きいじゃん!これの事だよ」
その僕とクリさんの会話に店員さんがそっと間に入り、
「えっと、お時間を計らせて頂きます。それでは、スタート」
「え、ちょっ」
僕は渋々その早食いセットを平らげる事に専念した。
…。
…。
そして、10分経過。
「んふぅ…もう食べれない…」
「あと牛丼たかが1杯分じゃないか」
「たかがって…じゃあクリさん残りを食べてよ」
「無効になるぞ?」
「うぅ…」
さらに、10分経過。
「ふぅ…ごっつぅあんです」
あっけにとられて見ていた佐藤さんは、
「凄いな、君、女の子なのにこれだけの量を食べれるなんて」
「(まぁ本当は男の子なんだけど)どうもです。生活掛かってるので」
完全にメガ牛盛2倍の塊がそっくりそのまま僕のお腹の中に移動したのを見てクリさんはのん気にこんな事を言うんだ。ったく、人の気も知れずに。
「哺乳類で体型が変わるまで食べる動物を見たのは初めてだな」
「それは珍しいものが見れてよかったですね…」
僕は一息入れようとお茶を飲んだ。
プツッ…。
ん?
この音はどこから?まさか…前だ。僕のお腹のところ、ブラウスのボタンが弾けとんだ。そのままボタンは2個飛んで、
「はぇ?」と僕のマヌケな声。
「おぉ!」と佐藤さんが驚いて僕の胸を凝視した。
ブラウスの前ボタン、ちょうど胸のところのボタンが全部外れて、しかも最悪な事にブラも外れておっぱいが乳首から何から全部こんにちわという状態になった…。ついでにいうと妊娠しているのかと言うほどに大きくなった僕のお腹も一緒に。佐藤さんの「おぉ!」っていう声は店中に響いて、朝食を食べに来てた客の視線が僕のほうに集中した。
「も、もうーっ!クリさん!」
「私は何もしていないぞ」
僕は前を両腕で隠した…。
はぁ…。