20 ゾロ目の宿命を背負う男 10

ショッピングモールに3人で出掛けた次の日。
僕とクリさんは早速、佐藤さんの電脳に仕組まれてるプログラムが吐いたログを抽出、それからクリさんがロギングしていた内容も合わせて、それらを依頼主である佐藤さんへと渡した。
これらのログには例えば「映画館に入った」のが何時何分何秒だったのかとかだけじゃなくて、「映画館に行こうと思った」のが何時何分何秒だったかとか、僕やクリさんが全裸になったタイミングもロギングされている。
クリさんは渡す際に3度、3度だよ、
「これを見たからと言って気落ちする事は無い。偶然ではないかも知れないが、だからといってどうということはない」
というのを言った。つまりだ、あの「面白い事があればそれでいい」って思っているクリさんが他人の心配をするようなぐらいに、とんでもないログが残されているという事なのだろう。正直、薄ら寒いよ。
佐藤さんはそれを受け取って、報酬を払って帰っていった。顔は笑顔でもなく、辛そうな顔でもなく、なんていうのかな、無表情だったね。
「ねぇクリさん、あの日、佐藤さんが時計を見てゾロ目だったのってたったの一度だけだよね」
「そうだな」
「気にするほどの事があのログの中にあるの?」
「一応はバックアップは残してある。この部屋のデータディスクの中にな」
「まぁ、いいや」
僕は中身をまじまじと見たいとは思わなかったね。だって他人が考えてる事までがそこにロギングされているんだよ。見られる側の気持ちっていうのは決していいものじゃないよ。
というわけで、この件についてはこれでおしまい。僕の気持ちの中ではそうであって、だからそれからぶーちゃんをクリさんの部屋に呼んで、一緒に録画してあるアニメを消化してたんだ。
その時だ。
プチッ。
その音を再び聞いたんだ。ちなみに僕のブラはフロントホックのタイプじゃないから、まるでフロントホックブラみたいに僕の胸のところが開いてしまっているのは尋常じゃなく変な事だ。
「クリさん…今何時何分何秒だっけ。あ、ごめん、今じゃない。正確には『僕のブラが取れちゃった時間』ね…」
さすがのクリさんも驚いた顔をして、
「…ロギングしていたわけじゃないから秒まではわからんが『今は』11時11分35秒だ」
「嫌な予感がする」
「あの客に連絡してみるか」
ぶーちゃんは一人だけモニタにかじりついてアニメを見ている。
「繋がらん」
「マジで?」
「単純に電波の届かないところにいるのならいいのだが」
「でも今の時間ってまだ家に戻ってないよね。あのデータディスクの中身を見ることなんて出来ないでしょ?」
僕が何を心配しているのかはあえてここでは言わないよ。佐藤さんがデータディスクの中身を見て真実を知ったのはいつだったのか、いや、真実を知って何をしたのか…つまりはそういう事だから。
「いや。すぐに見れるツールも一緒に渡してある。今彼がそのまま家にまっすぐに帰ると仮定すると、ちょうど駅のホームについているぐらいだろうか…」
「えっと…」
「ニュースサイトを見てみるか」
それからクリさんは電脳通信でネットに接続していた。5秒ぐらい経って、
「ふむ。人身事故が起きたらしい。今、上下線とも不通になっている」
「人身事故…誰が事故にあったの?っていうか、死んだのかな…」
「そういう情報はニュースサイトよりもアンダーグラウンドなサイトのほうが早いからな。知りたくも無いのに肉塊になった被害者の姿まで載せる。今、検索が終わった」
はぁ、相変わらず早いなぁ、この人は量子演算ユニットとニューラルリンクしてるからね、ネット検索スピードは検索サイト並だよ。
「えっと…どうだったの?」
「私が見る限り、事故に会って肉塊と化したのは佐藤だ」
「…マジで?」
っていうか肉塊とかいう表現いらないから…。
「画像を見るか?」
「いや、いい…」
僕とクリさんが静かにしている中、ぶーちゃんはアニメのEDテーマソングを口ずさんで上機嫌だった。