20 ゾロ目の宿命を背負う男 11

お昼過ぎのニュース番組で人身事故ではなく自殺として佐藤さんの死が報道されていた。僕とクリさんはなんで佐藤さんが自殺する結果となったのかを憶測だけだけども知っている。だからその憶測をちょっとだけ伸ばして、核心に近づけようと思って今、佐藤さんへ渡したログを確認しているんだ。
「まず最初は、朝、6時6分6秒。起床」
「マジで…」
「本人が気付いていないだけで起きた、つまり意識が覚醒したタイミングがそれだ。その後ぼんやりとした意識の中で時計を見て6時7分というのを確認しているな。だが実際に起きたのは6時6分6秒だ」
「もしミリ秒まであったら嫌な羅列を見そうだね」
「うむ…では次に」
「7時7分7秒?このタイミングはあたし達と出合ったところだよね」
「確かにそうだが、実は出会う少し前になる。出会ったのは7時13分33秒」
「それじゃその前のゾロ目はなんなの?何もなし」
「いや、佐藤が清風モールに行こうと決めた瞬間が7時7分7秒」
「スロットでこれが出たら嬉しいんだけどね…」
「で次が興味深い」
「8時8分8秒?」
「うむ。ナオのブラが外れかかった時間と一致している」
「はぁ…」
「で9時9分9秒が」
「言わなくていいよ…おっぱいが全開になった瞬間でしょ」
「うむ」
「10時10分10秒は?その頃はあたしとクリさんは下着店に居たよね?」
「それはゾロ目になっていないぞ。ちなみに、10時00分00秒に佐藤は『今日は映画を見ようか』と考えていたみたいだな」
「いいタイミングで考えるねぇ…」
「で、11時11分11秒に佐藤は映画館の開始時刻を気にして時計を見ている。それから次が」
「12時22分22秒?」
「12時と言ったほうがいいのか…0時00分00秒に佐藤は『今日は映画を見てそれで終わりにしよう』と考えている。実は12時22分22秒にも同じ事を考えているようだ」
「…」
「で、次に」
「いいよ…1時11分11秒だよね。あたしが全裸になったのは」
「そうだな」
「それで、最後がベンチを立ち上がったとき全裸になった奴だね」
「うむ。2時22分22秒だ」
「偶然…かなぁ?偶然だと思う?」
クリさんはお手上げのポーズをしてから、
「これだけのデータがあっても偶然と片付ける者もいれば、偶然ではなく何かがある、と思う輩もいる。私はどちらでもないな、前にも言ったが、偶然と決め付ける要素もなければ、では逆になんの因果で起きているのか説明出来ないのだだから、オカルト的要素もない」
「でも、その何だろう…」
「ん?」
「なんだか佐藤さんだけの問題じゃなくなってきているような気がするんだけど。結局あたしもクリさんも全裸になったよね?」
「うむ…。まぁ、考えても答えが出ないのなら答えが出ないのだろう。いつかどこかのタイミングでひょっとしたら閃いて答えが出るのかも知れないし、それまでの間、それについて考えるという事は言わば人生の時間を無駄に消費している事になる。佐藤も結局最後は自殺だか事故だかで死んだ。私は彼の頭の中は最初から最後までこのゾロ目に関する事ばかりだったと思うぞ。人はいつどんな理由で死ぬか解らない。ならいつか誰にでも訪れる死の影に怯えるよりも、今その瞬間を有意義に過ごす事のほうが大切とは思わんか?」
「そりゃ…まぁ、そうだね」
「そういう事だ。今日はそろそろお開きにしようか」
とぶーちゃんのほうを足のつま先でつんつんとつついて、「今日は終わりだ」と無言の意思表示をするクリさん。相変わらずぶーちゃんはさっきからドロイドバスター・キミカ特別編を見てるなぁ。ぶーちゃんの頭の中にはキミカしかないんだろうな。こういうのが生きているって感じがするよ。生きてるって感じ…?
生きてるって感じ…。ん〜?
「あ、クリさん」
「なんだ?」
「佐藤さんが自殺したのもゾロ目なのかな…?」
「多分な。時間からすると11時11分11秒あたりか」
「ちょうどその瞬間にあたしのブラがまた壊れたよ!」
「…うむ」
「それにさ、昨日の11時11分11秒にさ、佐藤さんがたまたま時計を見たよね」
「そうだな」
「その…」
「ん?」
「その瞬間に佐藤さんは何を考えたのかな?あたしの予想が正しければ…」
「『死ぬかも知れない』」
「え?」
「『死ぬかも知れない』と考えていた。映画の開始を気にして、今の時間を調べた時、たまたま11時11分11秒になっていたのを見て、佐藤は『死ぬかも知れない』と考えていた」
「マジで…?」
静かになった気がしたよ、部屋の中がしんと静まり返ったような気がしたよ。そんな中でドロイドバスター・キミカのEDテーマが流れていて、ぶーちゃんが「キミカは俺の嫁っ!キミカは俺の嫁っ!」と歌にあわせて小躍りしてるんだ。
ビリビリ。
その瞬間、またこの音が鳴ったんだ。
ゾッとしたね。僕は自分のブラがまた裂けたのかと思ったけど、裂けたのはぶーちゃんのズボンだった。
「ぁぅぁ…さ、裂けちゃった。ど、ど、どうしよう」
僕は今の時間を確認しようとしたが、クリさんにそれを止められた。
「まぁ、偶然だ」
無表情でクリさんがそう言った。