21 愛のエプロン料理王決定戦 9

続いてカメラはクリさんの所に向かったんだ。
その様子は僕の位置から見ても怪しげだ…。何故なら時折クリさんの顔が青白く光ってるからだよ。光源が手元にあるからなんだけどさ、料理する時に光源が手元にあるとか…どんな料理だよ!
司会者は恐る恐る近づく。
「栗原さん…?何やら手元が光っておられますが…」
気になって再び見てみる。
今度は会場の中央に設置されてるホログラムのほうを。
そこには何やらペンみたいな物の先っちょを魚に当ててるクリさんの手が映し出されてる。どうみてもそれは包丁には見えない…。料理だよね…工作じゃないよね…。司会者さんも疑問を思ったのは同じみたいで、
「これは一体何なんでしょうか…」
クリさんにマイクを向ける。
「刺身だ」
「そのペンの様な道具は何でしょう?包丁には見えないのですが…」
「これは電子ナイフだ。物体と物体を切り離す為の道具だ」
「確かに切り離すという意味では包丁と同じものだと言えますが…なんで電子ナイフなんでしょうか?」
「刺身というのは新鮮なものがいい。新鮮というのは死んでからそれほど時間が経過していないもの、もっと言うのなら生きているものがいい。だが魚を生きたまま皿にもってしまえばそれは刺身とは言わない。この電子ナイフは分子間の結合を解除し物体を切断する、最も鋭利なナイフだ。これで切断された生物は切り口が鋭利すぎて自分が切られたことすら気付かない」
とクリさんが言うと、まだ刺身の状態になってから時間が経ってなくてピクピクと震動しているそのキモチワルイ物体を急いで審査員の席まで運び、しかも運んだ先はえっと、あの自称アイドルの…誰だっけ。とにかく自称アイドルの女のところに駆け寄った。
「切断して時間がそれほど経っていない今なら新鮮な味を楽しめる!」
「ちょっ!来ないで!こっちくんな!!!いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と逃げ惑う自称アイドルを彼女のマネージャと思わしき人と一緒にひっ捕まえて、口の中にピクピクと動く肉を放り込んだ。
「ふひぃぃぃぃぃぃぃ!」
と変な叫び声を上げてのたうちまわる様はまさに地獄絵図だった。
「んんぐぅぅ…」
まるでさっきクリさんが持っていった魚の肉の様にピクピクと動いてる自称アイドル。と、そこにそっとマイクを近付けて司会者は
「味のほうはどうでしょうか?」
と聞いた。
「き…」
「き?」
「きもい」