21 愛のエプロン料理王決定戦 11

お芝居が始まった。
台本が無い。全部アドリブでどれだけ幸せな夫婦を演じることが出来るかというはっきりいって料理とか無理やりなコジツケじゃん、な勝負になっている。しかし限定フィギュアの為になら頑張らなきゃいけないのだ。
「ただいまぁ」
旦那(の役)の男性が帰宅してくる。
トタトタと僕は玄関まで足を運び、さて、ここで仕事で疲れてきて帰宅した旦那に言うセリフで定番なのは、僕の知識が古く無ければ「あなた、おかえりなさい、お風呂にする?ご飯にする?それともあ・た・し?」とかかな。えーっと、
「(おかえりなさい、ご主人様って言って)」
「はぇ?」
なんか突然その男性が小声でそう言ってくる。なんだよそのご主人様ってのは。あ、今の僕の格好がメイド服だからか(さっき着替えた…さすがに下着にエプロンという格好で2回戦を望む勇気は無かった)…っつても、なんでご主人様っていわなきゃいけないんだよ、それじゃあ夫婦じゃないじゃん。
「(頼む!頼むよ!ご主人様って呼んでくれ!)」
小声で小さく手を合わせて拝んでくる男性…。
ちっ…しょうがないなぁ。
「おかえりなさい、ご主人様」
「おおおおおお!」
男がガッツポーズを取る。何故か会場の男達からも歓声があがる…。さっきまでこの中肉中背の男が夫役になった時に今にも殺しそうな勢いだったくせに。なんだよ、この茶番は!
「えっと、ごは」
と僕が言いかけた時、その夫役の男性は僕をひょいとお姫様ダッコのように持ち上げて(ここで会場からぶぅーぶぅーのブーイング嵐)ちゃぶ台の所に連れて行くと、僕を膝の上に抱き抱えたまま起用にもあぐらをかいてそこに座った。あぐらに僕がだき抱えられたままの姿勢で、
「よし!夕食を食べよう!夕食を食べよう!」
なぜに2回言うし。
夫役は皿から鳥の唐揚げを一つ箸でつまむと、「(はい、これを僕の口に運んで、箸で、あーんて言いながら)」
えと、この箸をこう掴んで…こうやって旦那の口に運びながら、「はい、あーん」(ここで会場からああああぁぁぁぁぁぁ!となんか目の前でアイスクリームが別の人にまるごと食べられた時の子供みたいな叫び声を上げていた)で、唐揚げが夫役の口の中に入る。
「んんんほぉぉぉ、おいひぃぃ」
夫役、幸せそうな顔でもぐもぐと唐揚げを食べている。
そんなに美味しいのかな?飾り用の肉じゃないわけだ。と、僕は肉をひとつまみ手で取ってから口に放り込んだ。なるほど、普通の鶏肉だ。とくに高価なものを使っているわけでもない。これの一体何が美味しいのかな。
と、その時、僕の顔に夫役の男の鼻息が掛かってきた。
ふぅーふぅーと僕の顔を見ながら怪しげな鼻息をしている。なに、鶏肉を食べてる姿に発情したとかなのかな?
「(そ、それを…く、口移しで僕の口の中にお願いします)」
「え…えぇ?!」
「(お、お願い致しますでござります!)」
「えっと、じゃあ…」
本当にどうしようもない人だなぁ。僕はまだ咬みかけの鳥の唐揚げを口から少し出し、それを夫役の男の口の中へと口渡ししようと突き出した。
「ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!あーっあーっあーっ!!」とかいう怒声が会場の至る所から聞こえてくる!なんだ、その凄まじい嫉妬の念は。怖くて僕は思わず口に咥えていた鶏肉をぽろっと落としてしまった。その落としてしまった鶏肉がどこへ行ったかといえば、そのまま僕のおっぱいの谷間にぽすんと挟まったのだ。
「おおーーーーーーーーーーーーっ!」
まるでタイミングを合わせたかのような怒声が会場に響く。
でも、次の瞬間、夫役の男がその僕の胸の谷間にぽすんと挟まっている鶏肉に顔を近づけて口で咥えようとしたから、今まで座っていた会場のギャラリーというか、僕のファンクラブの人達はスポーツ観戦中のサポーターの如く、怒り狂って椅子から乗り出し始めた。それを見て夫役の男は悟っていたよ。男なので気持ちはわかるけど、多分、もういいようになれ、っていう自暴自棄でもあって、目先の欲望しか見えていないという状態でもあるのかもしれない。
一気に僕の胸の谷間に顔を埋めて、
「すはっ!すはっ!すーはー!すーはー!!ああああぁぁぁぁぁぁ!!!ナオちゃん!ナオちゃん!ナオちゃん!ナオちゃん!おっぱい!おっぱい!ナオちゃんのおっぱいで窒息したいよ!!ああああぁぁぁぁぁぁ!ああああぁぁぁぁぁぁ!」
もう当初の口移しで鶏肉を食べるという目的は一体どこへ行ったのか、僕のおっぱいに顔挟んだり揉んだり抱き締めたり、やりたい放題だった。サポーター達がやってきてひきはがしてテレビで放送できなくなるぐらいになるまでの間ね…。