21 愛のエプロン料理王決定戦 12

「さて次はユキ選手です」
ユキが演じる新婚生活かぁ。どんなのが出るのかちょっと楽しみだぞ…。本気で賞品が取りたいのならここで普段のユキらしさはいったんは捨てないといけないんだよね。メンヘラでアナーキーじゃみんなドン引きするだけなんだよ。まぁ、かといって期待したところで可愛らしく演じるなんてことはユキに限ってないだろうけど。
セットは僕と同じなんだけど雰囲気がちょっと違う。暗い。何が暗いのか解んないけどとにかくどこか暗いんだ。って…げげ、なぜかケルベロスがいるよ…。ちなみにケルベロスっていうのはユキのペットでわけあって頭が3つ、しっぽは蛇になってる。よくまぁそんなキモい動物連れてきて保健所呼ばなかったよね…。
さて、セットの隅に旦那の設定の男性が現れたぞ。
僕の時は僕のファンクラブの会員の1人がでてきたけど、もしかしてユキの事を気にいってる人が来るのかな?
「ただいまぁ」
とっても普通の感じのサラリーマン風の男性だ。
「おかえりなさい」
ユキ無表情でおかえりなさいだ!これは評価低いよ!低すぎるよ!結婚してから何年も経ってて冷めまくった夫婦を演じてるみたいじゃないか!僕は不倫系のドラマを見にきたんじゃないぞ!
っていうか、そこで「ご飯にする?それともお風呂にする?それともあ・た・し?」とか言うんじゃ無いのかぁ!そんなユキ想像できないや。
「え〜っと…」
ほら、旦那さんが何か言おうとしてる。ご飯とか出来てるのかな?って感じの質問をしたそうにしてる!
ユキは黙ったまま、テーブルの上に置いてある皿を指差した…。
そうじゃないじゃん!本当冷めきった夫婦だよ!いったいどこに愛があるんだよ!愛のエプロンなのに全然愛を感じないよ!
「ははは…これが夕食かい?」
旦那さん、凄くショックを受けてるよ!リアル旦那さんじゃないのに、ダメージの規模はリアル旦那さん級だよ!
「違うわ」
ユキが立ち上がった。そしてテーブルの上にあった皿を指差して「あなたのはソレ。こっちはあなたのじゃないわ」とかいって、結構オシャレな皿をさっとテーブルからどかした。って、それ違うの?!じゃあ誰がそれ食べるのよ!
ユキはそれを床に置いた…。
って…えーっ!?ケルベロスの餌だったの?!
「あなたのはこっちよ」
と言ってユキが指差したのは明らかに犬用のエサ皿だ!!
「こ、これなのかい…」
旦那さんは驚きながらも、箸を使ってその皿(犬用)からエサ…じゃなかった、夕食を食べようとしてる。
「手を使わずに食べるのよ」
ひぃぃぃぃぃぃ!!
なんてことやらせてるんだよ!
旦那さんは顔をエサ皿に突っ込んでむぐむぐいいながら食べてる…。犬みたいだ。隣で豪華な皿で料理を食べてるケルベロスがいる…人間様よりもいい皿で食べてる…。
「ふんっ…」
とか鼻で笑いながらユキは旦那の頭に足を置いてつまんなさそうにゴシゴシとやってる…。
「ちゃんと残さず食べた?」
「は、はひぃぃ!」
旦那、見た目は普通だけど明らかにマゾだ…。
「返事は『わん』でしょ」
「うぉん!」
「それじゃあ食後の散歩にいきましょうね」
「うぉん!」
その犬みたいな旦那さんは犬って事なのに、四つん這いでユキを背中におぶった。それからノシノシと歩いて会場の外へとでて行ってしまった。あれはどこまで散歩に行くつもりなのかな…。