21 愛のエプロン料理王決定戦 13

さてと、次はクリさんの番かぁ。
一応この劇(オーディション)というべきものの趣旨みたいなのを事前にクリさんには説明した。その時の会話は以下みたいな感じなんだけどさ、
「つまりさ、クリさん。クリさんが結婚したとしたら旦那さんにどういう風に話すのが『世間様』から見て普通かを考えて芝居をするんだよ。いい?『世間様』がどう思うのかが大切なんだよ」
「『世間様』というが世間は思っている以上に広いものだぞ」
「いや、そうだけどさ…。そんなの言ってたらキリがないじゃんか。一般的にはドラマとかに出てくるのを世間様っていうんだよ」
「ドラマに出てくるもの?」
「そうそう」
『ドラマの』って言っておいたから大丈夫とは思う。あと気になるのはクリさんがちゃんとドラマを見てるかどうか、だけかな。
さて、それに期待してクリさんの演技というのを見てみようかな。ユキの時も期待してたけど、「ご飯にする?それともお風呂にする?それとも…」っていうのを見てみたい。クリさんがそんなのを言うのを見てみたい!
例のドラマのセットみたいなのが登場して、部屋の中は薄暗い。あ、クリさんが玄関のところで待っているぞ。さっきのユキの時とは違う、これは期待できそうだよ。でも腕を組んで待っているのがなんかちょっと引っかかるな。ご主人が帰ってくる。
「ただいまぁ」
「うむ、任務、ご苦労だった」
に、任務?!
「に、任務?!」
突然の物言いにびっくりしてるご主人。
そんな様子にお構いなくでクリさんは続ける。
「シャワーか、食事か、就寝か、どれを希望する?」
なんだよ、その渋い選択肢は!なんかもっとこう、新婚の夫婦らしいのをやらないとダメじゃん。ってか一体なんのドラマの真似だよ!
「え、えっと、じゃあ食事で」
ご主人はタジタジになりながら、辛うじて選択肢の中から一つを選んだみたいだ。普通ならここでダウンだけどさ。
二人が食事が用意されているテーブルのよこあたり…に…。ん?なんだあの食事は!鉄板みたいな皿の上にマッシュポテトが盛ってある…まるで僕の食べてる食事そのまんまじゃないか!
「随分と…おいしそう…だね」
なんのバツゲームなんだよ、これは!
「では食事開始だ。この後8時12分からシャワー。8時25分に就寝。起床は6時32分だ。ゆっくり休むがよい」
ゆっくり休めないよ!なんだよその分刻みのスケジュールはさ!
「う、うんんぐ、んぐ」
旦那さん、マッシュポテトを流し込むように食べてるよ!なんの拷問なんだよこれは。
「後15秒で食事終了だ」
クリさん、相変わらずのペースで淡々と話してる…。その15秒のうちになんとか食事を食べようと(無理して食べなくてもいいのに)むせながらもマッシュポテトを流し込んでいる旦那さん。
「食事終了だ」
凄い勢いでまだ食べかけのマッシュポテトの皿を引っぺがして台所の方へと持っていくクリさん!
「次はシャワーだ。服を脱げ」
「え、いやちょっ、」
強引に旦那のネクタイに手をかけて脱がすクリさん。そしてシャツを脱がしてズボンを脱がして、パンツを脱がしそうなところで舞台セットごと何処かへと連れて行かれた。まぁ、そうするよね。放送禁止だからさ…。