21 愛のエプロン料理王決定戦 23

「さぁ、栗原選手の料理を審査するのは料理評論家の武田一斉さんです」と司会者。カメラが料理評論家の武田さんの周りに集まっていく。
こんなどこかの定食屋で出てくるような料理は武田さんの目にはどう映ってるのかな。この人、色々な国の色々な美味しい料理を食べてるんでしょ?
半ばあきらめ気味で様子を見ていたら…思わず息を飲んでしまった。
泣いてる。
料理を食べる前から武田さんが泣いてる。
箸を取った。
そして鶏モモ肉をほおばる。
目を瞑って味を堪能している。その時、頬を涙が伝ってこぼれた。
最初、それが芸風なのかと思ったけどそうじゃないみたいだ。本気で食べてる。まるでお腹をすかした人が久しぶりに食事にありつけたように。全然上品な食べ方じゃない。サラダを口に流し込みご飯を食べて、モモ肉をほおばり、ご飯を食べて味噌汁を飲んで、モモ肉をほおばり…。
涙を流しながら。
その異様な様子に観客はざわめいて、スタッフもヒソヒソ話をする。司会者もどうリアクションを取ったらいいのか迷っているみたいだった。
「ええっと、いかがでしょうか?」
と感想を司会者が聞くんだけど、無視された。他の人の料理も評価しなくちゃいけないのに、全部を食べ終わってしまったんだ。
そして再び司会者が聞く。
「感想のほうを…」
武田さんは頬の涙を手でぬぐってから、
「満点だ」
そう一言言ったんだ!
司会者もスタッフも会場の人達も驚きの声を上げた。やっぱりみんな思ってたことは僕と同じだった。「なんであんな料理で?」だったと思う。その驚きにはそんな思いがあったんだよ。
「なぜですか?ぜひ理由を聞かせてください。その涙のわけも」
司会者は恐る恐る武田さんに聞いた。
「…それは言う必要はない。私のプライベートな事だ」
「え?」
司会者がスタッフのほうを見る。スタッフも「?」って感じになっている。けど、中の一人が「理由を聞いてください」(とは聞こえなかったけど)そんな感じに司会者に言っているような感じだった。
「理由を聞かせて頂けませんか…?栗原選手もただ満点だと言われても、せっかく作ったのに報われませんよ」
その「報われない」ってキーワードでようやく、料理評論家の武田さんは重い口を開いた。