11 忍び寄る者 1

その日は夜遅くまでくだらない話を電話でしていた。
みのりと時々そうやって時間を潰すのだ。
時間はもうそろそろ深夜の2時をまわろうとしていた。そろそろ寝ないと明日が辛くなる。どこかのタイミングで話を切ろうとした時、ふとみのりは大きく話題を変えた。まるでみのりも何か話したいことがあってそのタイミングを図っていたかのように。
「ねぇ、この前の一之瀬村に行った時のビデオさ」
一之瀬村の話を突然してきても俺は別に驚かなかった。いつしかそういう時が来ると思っていたからだ。だが「一之瀬村」というキーワードで一気に頭の中にあの時の様々な出来事が流れこんできたのは驚いた。
「あの時、ビデオ撮ってたけど、これ、みんなで見るのかな?」
「まぁ、そうだろうな。昔もよく心霊スポットとか行ってたときにビデオ撮ってたじゃん。あれと同じだよ。どした?」
「ん…いや、いつ見るのかなって思って」
電話が終わってから俺は床に就いた。
さっきのみのりの話が頭の中に引っ掛かる。
話のタイミングとして変だ。いつ見るのか、それが聞きたいのか。突然そう思ったのか。本当は「見なければならない何かがある」のじゃないのだろうか。そしてみのりも俺も、他の連中もそうだ、この見なければならない何かをずっと見ないままで居たいと思っているのじゃないだろうか…。
大学時代、俺達は様々な心霊スポットを闊歩していた。怖いものなんて無かった。ただ、様々な知識や経験を貪欲に貪る事がしたかったのだろう。勉強や仕事以外の何かで、人は常に学んでいるのだろう。その一つが俺達の心霊スポット巡りだったのだろう。
だが今の俺達は違っていた。
無垢な子供ではない。
いつ俺達が大人になったのかわからない。ただ、大人になるという事はこの世において厄介なものを厄介であると知る事なんじゃないかと思ったのだ。大抵の大人達はそういう厄介ものから目を背けたりする。俺達は数多くの心霊スポットを巡ることや、恐怖体験や都市伝説を聞いて、そして仲間の死を経験として得て、本当に大人になってしまったのではないだろうか。
だから今は本能的に何が自分達にとって厄介なものなのかを悟るようになったのではないだろうか…つまり、今の俺達にとって「一之瀬村」は厄介なものだった。