10 太陽がたくさん 3

案の定、砂浜のほうも人がいっぱい。
日和は双眼鏡を持ってきてて砂浜を観察している。
「日和、捕まるよ?」
「ん〜?ん〜」
聞いちゃいねー。
「しっかし、ガキばっかりだな。中学生以上は見当たらん」
逆に中学生以上がいたとしてもスクール水着で来てるっていうのも稀のような気がする。
俺達家族はその所狭しと泳いでいる一般ピープルを横目に、キャンプの荷物をクルーザーに載せまくっていた。親父の会社の同僚って随分と金持ちなんだなー。まぁ、親父も金に困ってるのを見たことがないから、そういう金持ちがいるような会社なんだとは思っていたけども。
荷物は一通り乗せ終わった
親父がクルーザーのエンジンを始動させる。
「やーん!かっこいー!」
お袋(新)が年齢にそぐわない声を出してる。
クルーザーはそのままゆっくりとスピードを上げながら海のほうへと出て行った。どんどん遠ざかっていく砂浜。日和もそれを双眼鏡で追ってはいたが飽きたのか小さくなって見えなくなったのか、俺に向かって言う。
「七海、お前、そろそろ脱いでもいいんじゃないのか」
「え、脱ぐ?」
「下に着てるんだろ?ビキニ」
「まぁ、そうだけど」
「一人で脱げるか?俺が脱がしてやろうか?」
「あたしは幼児じゃないし」
中身が男なので別に恥ずかしいわけでもなく日和の前で服をぽいぽいと脱いでいった。脱ぐたびに「おおお!」「おぉふ…」「oh…」とか声をあげる日和。
白縁のピンクビキニ姿になった。
「すっげ…やっぱり女の子は全裸よりも何か着てるほうがいいな」
「それはチラリズムの定義?」
「うむ」
日和も水着姿になろうと服を脱ぎ始める。だが途中で手を停めてから俺をじっと見つめて、
「お願いがあるんだけど…」
「嫌」
「まだ何も言ってねーし」
「嫌なお願いだろうから嫌」
「今しか頼めねーんだよ!今ほら、親がいねーから」
どうやら両親はクルーザーの運転に夢中になってる。
「なに…?」
「俺の服脱がして」
「一人で服も脱げないの?」
「女の子に服脱がして貰いたいんだよ!!」
「ひぇ〜」
「おい、そこ、ドン引きするな。男の純粋な欲求を汚すな」
「ったく、しょうがないな」
俺は日和のシャツに手を掛けてボタンを一つ一つ外していく。
「うぉぉぉ!!」
日和は俺の両肩をがっしりと掴んでから吠えてる。
「なに…そんなに大きな声出したら気付いちゃうよ」
「七海のおっぱいが俺の目の前で揺れている」
よく見たら日和の視線は俺の胸元から動いていない。
「揺れてるのを『揺れてる』っていちいち実況しなくていいから」
「ちょっとだけ触ってもいい?」
「うちの親かそっちの親のどっちかが振り返ってしまうかもしれないという危険な状況の中でよくそんな挑戦ができるね…」
「男とは挑戦を繰り返す生き物だ」
「見つかっても知らないよ?」
日和はじっとクルーザーを運転しながりゃキャピキャピ騒いでいる両親のほうを見つめて確認を繰り返す。絶対に前しか向かない、こっちを見るはずもない、というタイミングを掴んだのか、その一瞬の隙をついてビキニの上から俺のおっぱいを鷲掴みした。
「おおおおお!!!」
「静かにしてよ…」
凄い速さで日和の手は俺から離れて彼の背中のほうへと逃げていった。どうやら今の「おおおおお!!!」っていう声が両親に聞こえて振り返ったみたいだ。でも振り返るモーションよりもわずかに早く日和はそれを検知し、反射神経とも言えるような動きで手を離したのであった。