10 太陽がたくさん 4

船は砂浜と無人島の中間辺りに止まった。
ちなみにここは瀬戸内海なわけで、瀬戸内海っていうのは全方向に必ず何かしらの島が見える。見えない時は霧が出てるとか雨の時とかだけ。そして携帯の電波もすべからく届く。そういう意味だとリゾート気分で行くにはとてもいいかもしんない。
「さてと、泳ごうっかな?」
俺はデッキから漆黒の海を見渡して言った。
「え?マジで?」
「ん?」
「お前、ここで泳ぐの?」
「え?なに?まずいの?」
「そういうんじゃないんだけど…」
お袋(新)が日和を見ながらニヤニヤしている。
「まさか…いや、そんなはずは…」と俺が煽ってみる。
「ちょっ!待ってくれよ。いや、違うんだよ。違う」
「そっか…ふーん」
「おい!納得するなよ!」
「泳げないんだね…」
「違う!断じて違うぞ!」
それを見ながら日和の母、というか、お袋(新)が「日和は足がつくところなら泳げるんだよね〜?」と口を挟んだ。
「おいやめろ!」
「まぁ世の中泳げない人もいるよ」俺はそう言いながら、うんうん、と頷いた。なるほど、水が苦手だから海とかには行きたくなかったわけだ。
「やめろって!」
「それじゃ、一緒に泳ごっか、お・に・い・ちゃん」
「てめ…こういう時だけ妹面しやがって…立場の低い奴から罵られるとプライドが余計に傷つく事を熟知していやがるな!なんて奴だ!」
日和は後部デッキに立って深呼吸をしている。そこから飛び込むつもりらしい。その光景を生暖かく見守るお袋(新)と、ぼーっと見ている親父。
「いいか、押すなよ?」と振り返る日和。すぐに、「っておい!今押そうとしてたろ?」と叫んだ。ちぃ…。さっそく突き落としてやろうかと思ってたのに。
「もう溜めとかいらないから早く海に入りなよ。別にバンジージャンプするわけじゃないんだから視聴者は緊張も期待もしてないよ。むしろ何この人って感じで見てるよ?」
「視聴者とかねーしっ!そっとしておいてくれよ!」
「うりゃーっ!」
俺は足で日和の腰の辺りをグリグリと押す。
「ちょっ!やめっやめr!!やめろてめぇ!飛び込むから!無理やりやっても教育上良くないだろ!」
「わかったよわかった。暖かく見守っておくよ」
俺はいったん日和から離れて、
「そうだ、それでいいんだ」
と日和がまた海の方に向き直った後、
「ハッ!」
と日和のケツに蹴りをかました。
「ぬぉぉぉ!!!」
そのままバランスを崩して日和はずるりと海に落ちた。