22 2xxx年宇宙の旅 4

宇宙への旅行…きっと立派なバスガイドもいるしエコノミーな椅子じゃなくてファーストクラスな椅子も想像していた。
でもね〜、想像するだけならタダなんだよね、貧乏人はひたすら想像を繰り返すんだよ。幸せな想像をね。想像力だけは金持ちに負けないと自負している貧乏人はこの世の中には多いと思うよ。だから改めて現実を理解すると絶望の淵に立たされてしまう。
そう、バスガイドは居ない。ハゲた運転手が一人。それから椅子はエコノミーを通り越して、エコノミー症候群の中でも窒死率の高いハイ・エコノミーと思わざる得ないものだった。
乗客の年齢層は明らかに60代ぐらい。もう人生は死ぬまでの間にやり残したことをやっておくような世代。人種は様々だね。中には外国人(白人)もいる。それがビニール袋からサキイカを取り出してビールの摘みにしながら、隣のじいさんの畑に猫が入って糞をして逃げていっただとか、ごみ収集のボックスに車がぶつかってからカラスがつつくようになったとか、宇宙旅行をこれからするというのに何が悲しくて猫の糞だとかゴミ場のカラスの話をしなきゃいけないんだよ。このまま旅行が終わるまでの間ずっとその話をするのかな…。
「おい!」
席についてから、網本は僕のほうやぶーちゃんのほうを振り返ってから言った。多分、言いたいことは僕が今思っていたことと同じだろうと思う。
「これは本当に宇宙旅行へ向かうバスなのか?まさか町内慰安旅行と合同になってるんじゃねーだろうな?俺達温泉に行ったり寺に行ったりされないだろうな?」
「プレートには宇宙旅行がどうとか書かれていたよ」
「マジックでか?マジックなんだろ?」
「網本もみたでしょ?マジックだよ」
「バカにしてるとしか思えん!」
そんな僕と網本の話を隣で聞いていたクリさんが、
「ちょうど網本の親ぐらいの世代よりも前は宇宙旅行というのが夢だったのだろう。正確には宇宙旅行は素晴らしいものとマスコミに吹きこまれていた世代だな。今でも何かと事あるごとにマスコミは宇宙旅行を勧めているが、あれは一部の旅行会社から金が動いているだけだな。あんまり儲からないので世論を動かして人を呼ぼうとしているだけだろうな。ナオやデブなどネットにどっぷりと浸かっている世代では反マスコミ活動をして営利を得ている輩によって今まで創り上げた幻想がハリボテだった事を知っている」
まぁ、確かにそうだけどさ…。さすがに僕も宇宙旅行って言ったら慰安旅行とは違うんだろうとは思っているよ…。
ぶーちゃんはポテチを食べながら手を油でベトベトにしてて、掌についたポテチカスをぺろぺろと舐めながら、
「た、多分、あの人達は宇宙にはい、いかないと思うよ」
「あぁ?どういう事だ?」
「りょ、旅行会社のプランで、き、軌道エレベータの下まで行って帰るっていうのがあるからさ、多分、そ、それなんじゃないかな」
「クッソ!軌道エレベータの下まで行くプランのバスと、宇宙まで行くプランのバスで別けて欲しいぜ…。これじゃ俺達もジジイどもと慰安旅行に行ってるように思われちまう!」
そんな事を話していたら前のほうからビニールの袋が回ってきた。
前の席に座っているおばあさんが、
「これ、よかったらどうぞ。おいしいですよ」とニコニコしながら渡してきた。
「あー!俺達はいらないよ!」と網本。
「た、食べるよ!ちょうど、お、お腹が減っていた、と、ところなんだ。あ、ありがとう」とぶーちゃん。
「さっきから食ってばかりいるのにお腹が減ってるって一体どういう身体してんだよ!腹の中にブラックホールでも入ってんのか?!」
そ、それはごもっともです。