22 2xxx年宇宙の旅 8

僕達が乗り込んでしばらくの間は客室乗務員の人達が慌しく乗り込んだり降りたりしていた。そりゃそうだと思うよ、プラン上この飛行機は長年の軍務を終えて倉庫へいったん入って、その後民間機に改造される予定だったんだからね。客室乗務員はそれこそ尻に火がついてパニックを起こしているような感じで予定外の飛行機にお客さんを乗せる準備を(と、言ってももう乗ってるけど)しなきゃいけない。
でもやっぱり軍で使われていた飛行機そのまま。眼に触れるところは全部質素な作りをしていて、例えば壁の色にしても無骨な灰色のデザインだった。
「へぇ〜これが最近流行りの反重力エンジンのねぇ」
と、僕達よりも後に入ってきたおばあさんおじいさん連中からの声が聞こえる。
「座敷はどこかのぅ?」
座敷とか…フェリーじゃないんだから。
しばらくしてから、僕は耳を疑ったんだけど、さっき空港のロビーで「あーあー」とか言ってたあのおじいさんの声が聞こえたんだよ。何故か飛行機に乗ってて、その奇妙な挙動が既にパニックになっていた客室乗務員達をさらに困惑させていた。
「あー…わしゃ…国に帰りたいんじゃ…。これは中共輸送艦じゃなかろうか。いやじゃいやじゃ…。わしゃ国に帰るんじゃ…。あーあー」
やばい。おじいさん頭おかしくなってる。乗りたくなさそうにしてるのに無理に乗り込んできてる。じゃあ降りてよって感じじゃないか。
「田中さん、おうちに帰るんでしょ、なして乗ってきてるのよ〜」
とお知り合いっぽいおばあさんがちょっとイカれた田中さんと呼ばれてるおじいさんを外へと連れだそうとしている。
「わしゃ、わしゃ…国に」
「はいはい、帰ろうねぇ。国に帰りましょうねぇ」
そのまま空港の職員2名に両脇を抱えられて、まるで連行されるかのように連れていかれた。田中さんはきっと警察経由で家に連れて帰られるんだと思うよ。そして家に帰ってから一人で空港まで言って国に帰るだのなんだの言っていたと家族に言われて頭がおかしい人扱いされてしまうのかな…。
そうこうしているうちにアタリ船の窓から見える視界はどんどん空へと変わっていった。上昇している事すらわからない。重力を感じさせない。エレベータで上がったりだの下がったりだのする時に途中は何も感じないのに似てる。
宇宙に出てしまうんじゃないかっていうぐらいに上昇をした後、ゆっくりと視界が動いた。このタイプの飛行機は垂直に上層した後、方向を決めて、そこへ向かってまっすぐに飛ぶんだ。
「綺麗だねぇ」
僕は窓に顔をくっつけて外を見ながら言った。
ぶーちゃんが隣にいて、一緒に外を見ていた。
そうとうに高度が高いらしく、空はとてもとても深い青をしていた。星が見えるほどに。
そしてゆっくりと加速していく。
周囲の景色が残像として見えてしまうほどに加速していった。