22 2xxx年宇宙の旅 9

眠っていたのかな。
ぶーちゃんの肩に寄りかかっていたみたいだった。気付かなかった。
「あ、ごめん」
「い、いや、全然、いいよ」
停まっているのかな?飛行機の窓から見える外の景色はいつぞやの温泉に行ったとき、そこらじゅうから硫黄臭い白い煙が立ち上がっていたのに似てる。雲かな?そして、重力は感じなかったけどゆっくりと飛行機は垂直に降下しているみたいだった。
「もうついたの?」
「う、うん。今、マレーの国際空港の真上だよ」
やっぱり僕の予測は当たったみたいだ。
雲を抜けると下にはビル群が広がっている。そのビルの間を縫うようにして電車が走っている。ちなみに電車っていうのはこの飛行機と同じく、反重力コイルエンジンで動いている。じゃなきゃあの重さのものがケーブル1本で宙に浮いているのは物理法則には反しているからね。そしてビルの間に旧世代の飛行機やらがこれまた縫うようにして離着陸を繰り返している。もうちょっと広い場所に国際空港作ればいいのにね。
荷物をまとめて空港ロビーにでると、さっきの田舎空港とは大違いな広い空間に色々な国の人々が行き来している情景を眺める事ができたんだ。ちょっと場違いな年寄りの集団の最後尾に僕達がいる。そしてそれを取りまとめているのは旅行会社の人で、子供に語りかけるように話すその癖もそろそろウザくなってきていた。
「はーい、みなさーん。注目してください!ちゅうもーくー!。いいですか?これから、軌道エレベータの出発点となる島まで、船で、移動しまーす」
「ほほぅ。船か。随分と豪勢なことだな」
網本は腕を組んで搭乗員の話を聞いている。
「船って言っても、本当に船かもしれないよ。ほら、海の上の船」
いちおうそれは言っておかないと。またアサルトシップの事だとか勘違いしそうだからさ。
「おいおい、宇宙旅行なんだぜ?」
と、網本はまるで僕をバカにするかのような笑いをしていた…。
その10分後、そらみたことかと僕が笑い返すわけだよ。そう。僕の言ったとおりに…いや、それよりもちょっとやばいんじゃないかな。
僕達が空港のロビーを出てからしばらく道路を歩かされた。もうこれだけ歩かせるならバスに乗せてよって言おうと思ったぐらいの時、そこは高架橋が沢山ある場所で、薄暗くなったその場所は意外な事に以前までは漁船が出入りしてたんじゃないかって思えるような、小さな港だった。市場もある。えっと…。魚市場でおみやげを買えと言うことなのかな?
「おい…船が来たぞ…」
網本が指さした先に、そう、僕は見てしまった。
多分現地の人が書いたのだろう、不慣れな日本語(感じ)が書かれてある旗のついた船、漁船なんだけど、それが近づいてくるんだ。旗には宇宙旅行って書かれてある。これは…どうリアクションとったらいいのかな?バラエティーだと笑うシーンだよね。実際はこれほどまでに静かだとは思わなかったよ。
漁船らしき船を前にあ然とする僕達。
構わず旅行会社の男性は、
「これから船で移動しまーす!島へはこの船に乗ります!」
ああ、言い切った。言い切っちゃった。
「ちょっとまてーい!」
網本がすかさずツッコミを入れる。
「はい?なんでしょう?」
「こりゃ漁船じゃねーか!」
「元漁船です」
宇宙旅行ってのはあれか?三途の河の向こう側にある世界を宇宙と揶揄してるのか?そうなのか?」
「はっはっは、違いますよ」
「いや、これおかしいだろ、おかしいよな?俺達ははるばる日本から釣りをしにマレーシアに来てるんじゃないんだよ?」
と抗議する網本の後ろではご老人様達がぞろぞろと漁船に乗り込んでいった。「釣り道具を持ってこればよかったかのぅ」「やめてよおじいさん、そんな重いものを」だとか、外人さん(白人)が「オー。フィッシングボート?フーム、ナイスボート」なんてやりとりも聞こえてくるんだ。
「ささ、乗りましょう!」
僕達はその爽快な潮の臭いがぷんぷん漂ってくる漁船に乗り込んだ。これ本当に軌道エレベータに行くんだよね?ここまできて『軌道エレベータ村』とか出てきて下手なアミューズメントパークが現れたらさすがの僕も怒るよ?