22 2xxx年宇宙の旅 16

夕食は大広間のような場所で和食…なんだ、やっぱり。
日本のホテルで和食を扱っているところとおんなじ感じだ。そのフロアは最初から畳があるところじゃなくて、以前まではおそらく靴で出入りされていたであろう場所、そこに畳の様に見える素材の敷物が一面に締めてある。なんというか、ダサいっていうか、チープっていうか…。
「わ、和食のコースは、おかわりが、で、出来ないから嫌なんだよな。い、いや、コース料理は、全部おわかり出来ないよね」
「ん〜そうだね」
僕とその隣に座るぶーちゃんは、並べられてる料理を見ていた。前菜に酢の物に…。ありきたりなものだなぁ。日本のホテルだと地元の特産品が一品か二品混ざってたりするけど、ここで特産品混ぜたらきっと別の国の料理になっちゃうんだろうなぁ。
「おもてなしの心を感じるな。うむ。わざわざ日本から料理人を呼んで作らせたのか」などと網本が言ってる。
その一方で既にクリさんは前菜を平らげていた。
「早いねクリさん、まだお酒来てないよ」
「これは上石食品のレトルトだな」
「え、マジで?」
「食べてみるといい。若干保存料の香りがする。以前、料理勝負の時にいくつか料理の知識を得ようと思って味覚データベースを作っていたから、市販の料理に含まれている保存料も何を使っているのか分かるぞ」
「分かりたくないものまで分かってるんだね…」
僕も一口。
あ、本当だ。っていうか、調理の仕方も間違っているっぽい。本来これって封を切って別の皿に盛った後に温めなきゃいけないのに、パックに入ったままの状態で温めている。熱でパックについていた保存料が溶け出してるのかな。薬品臭い味がする。
この状況ではさすがにさっき『おもてなしの心』がどうとか言ってた人もショックを隠しきれ無いみたい。和服姿でお酒を運んできた罪の無い店員に網本はいきなり怒鳴り散らし、
「おい!この料理はなんだ!レトルトみたいな味じゃねーか!!」
なんて言う。でも店員は微動だにせず、
「はい。レトルト食品です。さっき私がチンした」
と回答。
「まずいッ!!!全然美味しくない!!!」
いや、あんた話聞いてただけで食べてないでしょ。
日本食しろってお客言った、だから日本食日本食不味いよ、全部レトルト。私、嫌い」と聞き取りにくい日本語で和服姿の現地女性が説明してる。確かにそうだよね、上の人の指示に従ってるだけだから客に何か文句言われてもしょうがないよね。
「俺は食わん!こんなものは食わん!」
「みんな食べないよ。これ殆ど飾りみたいなもの。お酒だけ飲みます」
なんとなく分かってきた。
ここで日本食を出せと言った人がいたんだと思う。それは日本人で、日本食を出させて食べずに満足したんだろう。お酒だけ飲んで料理を残して、後は屋台だとかで食べたりする。そういう日本食の食べ方っていうのがあるんだ。なんていうんだっけ…。宴会方式かな?それだと料理は飾りで、箸もつけずに捨てられたりもする。箸もつけずに捨てたれているのをこのホテルの従業員は知ってるからか、なら最初っからコストを下げようとレトルトにしちゃうわけだ。
「まぁまぁ、この人に文句言ってもしょうがないよ」
と僕がなだめておいた。網本は支配人んだか現場監督だかに文句言うとか言って出て行ったよ。アホだね…。
クリさんは相変わらず料理をつついてはいた。
「ふむ。これはミアシンが使われているな」
「何それ」
「発がん性があるので日本では保存料として禁止されているものだ。どうやらこのレトルト、中国製のようだな。実に経済的だ」
あー…。向こうで宴会してるおじいさん、おばあさん連中が喜んで発がん性物質を食べちゃってるのを遠目で見ながら、僕はぶーちゃんに、
「後で屋台にいこっか?ほら、ホテルの外に屋台街があったよ」
と言った。