22 2xxx年宇宙の旅 19

さて、いよいよ今日は軌道エレベーターに乗る日なのです。網本は朝の5時ぐらいから起きて何やら気合みたいなのをいれています。この旅行のメインがそれにあるのだからわからないでもないけどね。
「はい、今日はこれから軌道エレベーターの基地の観光をします。えっと、軌道エレベーターに乗る方はこれから私の後をですね、付いてきてください」
ぶーちゃんの予測通り、どうもこの旅行プランには軌道エレベーターに乗るプランと軌道エレベーター基地での滞在だけの2種類あるものだったみたい。あのおじいさん・おばあさん達は宇宙へは行かず、観光だけ済ませて、後は僕達と合流後日本へと帰るらしい。
「へっへっへ。いよいよだな」
網本がニヤニヤしながら、旅行会社の人のすぐ後ろを歩く。それに続いて僕達、それから白髪の外国人風の初老の夫婦、カメラの機材を持ってる中年の男性、若いカップルが続く。
そして軌道エレベーターの搭乗口に到着した。
そこは宇宙へと押し上げる貨物が仮置きされている巨大なフロアだった。ここにくるまでにみた様々な固体・液体の貨物、宇宙ステーションの部品らしきもの、そして中にはこれ、宇宙で乗る飛行機?みたいな円盤型の航空機らしきものがまるごと置かれていたりもする。フロアでは僕達旅行客なんて2の次なんだよ、って言うがごとく、作業員やドロイド達が忙しく荷物を運んでいる。
「あれ…なんかもめてる?」
旅行会社の人と作業員らしき人が現地の言語で話をしているっぽい。その作業服の男性はPADやホログラムで表示されている荷物の搭乗スケジュールなどを指さしている。旅行会社の男性は明らかに曇った顔をしてるんだ。あ、戻ってきた。
「誠に申し訳ございません」
と、その旅行会社の人、僕達の元へと戻ってきてからそう言った。
「まさか、乗れなくなったって話じゃねーだろうな?」
網本が言う。
「えー…どうも、スケジュールにミスがあったらしく、旅行者を次に宇宙へとあげる日程はですね、明日になっていました」
「おいちょっと待てよてめぇ!俺達は明日には帰るんだぞ?」
「誠に申し訳ございません!」
うわー。最悪だ。
日程が一日ずれてるって凄い大きなミスじゃないか。これはもう一泊する事になるのかな?でももう一泊するって僕達みたいな仕事してない人はいいけど、あのおじいさん・おばあさん達はどうなるの?このアメリア人っぽう老夫婦は?みんなのスケジュールを一日ずらせるのかな?
「それじゃ、あともう一泊するって事なんだろうな?」
「えー…それが、他の方の日程がありまして…」
ああ、やっぱりダメなんだ。ここまできてこのまま日本に帰る事になるとは…。
案の定、網本は旅行会社の男に突きかかっていって襟首掴んで「てめぇ!ふざけんな!ぶっ殺すぞ!」なんて吠え散らしてる。僕とぶーちゃんで止めに入るのが精一杯だったよ。でも本音言うと僕も首締めるの協力したいぐらいだったのさ…。
僕達もあのアメリア人老夫婦も、ここまで来てこの絶望に襲われてしまうことは想定外だったんだ。ただあ然としてその場に立ち尽くしていたよ。旅行会社の人はなんとか調整が(と言ってももう今日の明日のの話じゃないんだけどね)出来ないかと試行錯誤してるみたいだった。
さっきの話だと、いったん日本に戻った後、無料で僕達を再びこの場所へと連れてきてこんどこそ確実に軌道エレベーターに乗せてくれるとの事だった。そりゃそれぐらいはしてくれないと詐欺じゃん。まぁ、僕達はそもそも賞品として来てるからお金は一銭もかかってないんだけどね。
一息落ち着いたとき、クリさんが一言、
「スケジュールが不一致していたのだろう。一致させればいいのではないか?我々のスケジュールに」
「へ?」
いやぁ…まさかと思うけど、まさか…。
「今日の日程に旅行客の搭乗スケジュールを組み込めばいいのか?」
網本がクリさんに駆け寄ってきて両肩をガシっと掴むと、うんうんと頷いて「頼むぜクリちゃん!やっちまってくれ!」なんて言い出す。やっちまって…って、また犯罪行為をしちゃうのか。
「いまデータを修正した」
わずか2秒ぐらいでクリさんが回答した。
そしたらさっき旅行会社の人と話していた作業員が何度もPADやホログラムの日程を見直していた。そして旅行会社の人が本社と連絡をとっているところへと駆け寄っていったんだ。
そして満面の笑みと冷や汗を浮かべた顔で絶望してる僕達のところへと戻ってきた。この後いう台詞はもう予測はついてるよ。
「申し訳ございません、貨物の運送スケジュールに間違いがありまして、どうも今日、軌道エレベータに乗れるようです!」