22 2xxx年宇宙の旅 22

網本がタッチパネルのどこかを触って、画面が切り替わる。なるほど、僕達が乗っている軌道エレベータのカメラは一つじゃないみたい。メンテナンス用に用意されているのかもしれない。
そして切り替えている間に判ったんだけど…。
「なぁ…動いてなくないか?」と網本。
それは軌道エレベータのカーボンファイバー製の柱の途中に設置されている中継地点(のような建物)がカメラに入っている映像だった。もしエレベータが動いているのなら、この中継地点は遠ざかったりまたは近くなったりするはずなんだよ。
「おいおいおい、エレベータが止まる事はたまーにあるけど、まさかここでそれに遭遇するとはどこまで運が悪いんだよ…」
網本が言うとおり、僕も同意見だったよ。っていうか僕の場合は普通のエレベータでも止まったのは今まで体験した事ないわけだけど。でもまぁ、これ最近(っていつかわかんないけど)出来たばっかりだし、不具合は色々とあるのかもしれないな。まさか不具合の一つでカーボンファイバーの柱が千切れたりとかないよね?そんなくもの糸な話はごめんだよ。
「こういう時はその…非常ベル押すんじゃないの?」
僕達と一緒にモニタを見ていたカメラ機材を持ってた男性が言った。エレベータが止まったら非常ベルを押す、なるほどとても判りやすい考え方だよ。全然シンプルだ。怪我人が出たら救急車を呼ぶっていうぐらいにシンプルだ。このルールを習うのは小学生低学年ぐらいの時かな。
網本は「よし押してみよう」と非常ベルと英語で書かれてあるボタンをカチカチと押していた。カチカチカチカチ。「反応無いぞ…」
本当に止まったちゃったのか。それはなんで起きてるのか。その事情を判ってそうな人に聞いてみることにしたんだ。クリさんに。もしかしたら解決方法まで編み出してしまっているかもしれないでしょ。
「クリさん…」と僕は負け犬がくーんと鼻を鳴らすような感じでクリさんのほうをみて、今何が起きているのか質問したんだ。
「ふむ…。おそらくどこかで電源のケーブルが断線したのだろう」
「え?マジで?でも電気来てるよ?」
クリさんが言っている事に反して、フロアにはちゃんと電気は来てるし、外のカメラも確認できてる。ほらさっきのモニタで外の様子が見えたし。
「地上・または宇宙ステーションからの電源供給だけがストップしているようだな。このフロアや定点カメラの電源供給は外のソーラーパネルから行われているみたいだ。そして…」
と、クリさんが何か言いかけたとき、「ひゅーん」って情けない音と共に、僕たちの身体は地面から離れた。
「今、このフロアの重力制御装置がバッテリーを使い果たした」
…。