22 2xxx年宇宙の旅 23

重力制御装置の故障から既に3時間経過。
相変わらずエレベータは動く気配がない…。あーん!
「クリさん、何か助けが来るような様子ってある?」
「いや、全然」
「ああ、どうしよう。ここで死ぬのかな…。宇宙にも行ってないし地球からも遠いし。まさかこんなところで死ぬなんて誰が思うのかな」
「まぁ、地上を出発したエレベータがなかなか辿り着かないのだ。待っておけば異常に気づくだろう。対策を今練っている最中かもしれんしな」
「はぁ…」
みんなさっきまではウロウロしたり喚いたりしていた。けど、なんら技術を持たないただの旅行者がここで出来る事と言えば待つことぐらいだったんだ。それを悟った人から順番に静かになった。ぶーちゃんも「気持ち悪い」とさっきから唸っていたのに今は寝てる。
網本は…なんか様子が変だな?どしたんだろ?
「網本、どしたの?」
額に冷や汗を浮かべている。その汗が粒になって無重力空間の中へと飛んでる。その光景はなんとも美しかったんだ。だけど、汗を発している本人は全然そんなのを気にしている余裕はないって感じだな。
「やべぇ‥やべぇよ」
「なにが?」
「…がでそう」
「え?」
「く…がでそう」
「はぁ?」
「クソがでそうだって言ってんだよ!あッ!」
え。クソが出そう?今なんか「ブリッ」って音がした。おならならいいんだけど、おならと一緒に何か液体が出たんじゃないのっていう音だ。ヤバイ。離れろ!!!
「おいおい!離れるなよ!大丈夫だよ、屁だ!屁!」
「ち、近寄らないで…」
「ま、待てって、お前は小学生かよ」
「うんちってバイキンだらけなんだよ?近寄ったら死ぬ」
「死ぬかよ!じゃああれか?俺はトイレでウンコしてたら死ぬのか?」
「耐性が出来てるから死なないでしょ。あたしは死ぬ」
「死なねーよ!」
「とにかくよらないで!」
「わかったよ、っていうかトイレないかな?クソしてーんだけど…」
「あるわけないじゃん!どんな豪華なエレベータなんだよ、トイレつきって」
「ちっ…そんじゃ。あっちの人がいないところでしてくるか」
「え?え?我慢するって選択肢はないの?」
「我慢…の限界…だ…」
網本はなんか足を「く」の字に曲げてふらふらと歩いていく。人が居ないって言ってる場所へ。そこは荷物がいくつか置かれている。上(宇宙)にあげる予定の荷物が…。
「どうしたんだ?」とクリさん。
「いや、その…網本がね、うんちしたいとか言い出して」
「うんち?最近の若い奴はケツの筋肉がぜんぜん駄目だな。ちょっとしたくなったら垂れ流すなぞ、家畜の所業だぞ。我慢というものを鍛えないとならん」
その女子高生みたいなルックスで「最近の若いもの」とか言われても説得力がない…。とにかく、網本から少しでも離れよう。バイキンがヤバイから。と、僕がクリさんの手と、ぶーちゃんの手を引いて放れようとした時、
「ぶりゅぶりゅぶりゅぶりゅぶりゅぶりゅぷしゅッぷーーーぶりゅ…ぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぶじゅぷりっぷりーッ!」っていう嫌な音が響いた。凄い嫌な音だった。トイレ以外の場所で聞くぶんには凄い嫌な音だった…。