12 一人飲み 6

身体から一瞬にしてアルコールが全部蒸発したような気分になった。カウンターに座っていたサラリーマン風の男、以前俺を指名したお客だった。確か、1回目は昼間にまるで会社を抜けだしてきてデリヘルを呼んだみたいな感じだったと思う。あれからまた昼間にもう1回指名してきた。相変わらず緊張していたな。
2階も顔見てると完全に俺の記憶と一致してしまっているのが分かった。この人は間違いなく俺を指名したお客だ。向こうも気付いたみたいだ。
「ちっ…」
俺は聞こえないような小さな舌打ちをした。
こういう時はどういう感じにストーリーは進むのだろうか。
馴れ馴れしく話し掛けてきて「今日はお店はないのかな?」とか「今日、今からどう?」とか言ってくるのか。そう言われたら俺は8割機嫌悪く対応するだろう。それほど大人ってわけじゃないから「今日は話し掛けないでもらえますか?プライベートなので」とか「プライベートで会うってのをやっちゃうとお店に出入出来なくなりますよ、知ってました?」とか言おうかな。
そんな気分でいたら、あのサラリーマン、そそくさと会計を済ませて出て行った。相当気まずい雰囲気だったらしい。でも一安心だな…。これでこのカウンターは俺だけのもの。
それから俺は魚のあら煮を注文したり、ブリカマを注文したり、焼酎を飲んだり、熱燗を飲んだり、これでもまだぶっ倒れる事はないのか?え?って感じに自分の身体への挑戦みたいな感じで次から次へとアルコールを摂取していった。でもさすがは親父譲りの超酒豪。女になってもアルコールが屁でもない。
ただ、胃の残りスペースは小さくなりつつある。食べるペースはゆっくりに、飲むペースもゆっくりになって、俺はアイフォーンをいじりながらチビチビとウイスキーやら焼酎を飲み始めた。
ようやくここいらで、アルコールを摂取していて気持ちいい瞬間、アルコールハイって奴か、頭がぽわんぽわんして気持ちいい〜ってのを味わっていた。注文を重ねるごとに店員はビビっていたけどね、俺がどんどん平らげていくから。
夢見心地で一人酒を楽しんでいたら、店の玄関の方から凄いうるさい女が数名ほど入ってきたような気配がする。こんな時間に何しに来てんだ?って俺もまさにその「こんな時間に」しかも一人で来てる女なわけだけど、その「ぎゃはははは!」って下品笑い声を上げながらドタドタと入ってくる女達は、一人でカウンターに座っている俺が珍しかったのか、「お?」って声を上げ、口に手を当てて、急に黙って通りすぎていった。さっきのサラリーマンにしろ、今のクソうるさいギャル女達にしろ、なんだか俺を畏怖の対象みたいにしていくよな。
しばらくしてから店の奥からまたあの「ぎゃはははは!」という下品な笑い声が聞こえ始めた。