2 新生活応援フェア

はぁ〜…夢か。夢の筈だよな。
そこはいつもの俺の部屋。30歳男、一人暮らしの寂しい部屋。春の暖かい日差しがカーテンを暖めてくれて、それでいて、きっと窓を開いていたのなら丁度良い感じのそよ風が入ってくるであろう、そんな部屋。どうしてこんないい気候の朝でクソみたいな夢を見てしまったんだろう。
おきてから30秒経たぬうちに凄い速度でなんの夢を見たのか忘却の彼方に忘れていきそうになる。そういえば神様が喫茶店で俺の事を馬鹿にして、なんか凄い違和感ある関西弁話すアラフォーのババアだったような気がする。それから俺が女になるって夢じゃないっけ?まぁどうでもいいか。
と、時計を見ると…今日は日曜日か。明日から会社だな…嫌だなぁ…。
などと、日曜日の朝から明日の会社の事を嫌がって鬱な気持ちになってみたりして、なんだか肩も重い。重いってか、前のほうに体重が…。ん?今、俺の胸板のところでなんかブランってした。なんか丸いモノがブランってした。このブランって、前にテレビやらでチラって見えて嬉しかったモノだ。
「え?」
え?。今、「え?」っつったの誰?俺?なんか、アニメキャラみたいな声なんだけど…何の病気だ?喉の辺りのウイルス性の病気?このブサ面で声がアニメキャラになったら会社行けない。どうしよう。もう死のうかな。声がアニメキャラになる病気でググってみようかとそんな事を考える間もなく、胸板のところでぷるんぷるんしていたモノを両手で掴んでみる。それって軟らかくて気持ち良いモノのはずだけど、手から伝わる感触よりも先に胸に触れた手の感触(わかるかな?)が伝わって、電気が走るような。
「うぉ…」
またアニメキャラの声!コレどっかで聞いた事ある声だ。いや、そんなのどうでもいい。鏡だ。とにかく俺は真っ先に風呂場で鏡を見なければならない。何故なら、今の状況を解り易く把握する為にはそれが一番いいからだ。だが、それをしてしまうことが非常に体内にストレス性の物質を大量分泌する事は間違いないのだ。胃の中になんかいやーな液体が出る気がする。というのが2秒ぐらい考えた事で、それから風呂場にたどり着いて、そう、俺は鏡を見たんだ。見ちゃいけなかった気がする。
まぁ、この詳細を話す前に「一言」言っておく。俺は今この状況をほんの少しだけ体験したんだが、いや、体験したというよりまったく理解を超えていたんだが…。
あ…ありのまま"今"起こった事を話すぜ!
『俺は昨日までブサ面男で過ごしていた。と、思ったら今朝、女になっていた』
な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だったらお願いだから醒めてください。っていうかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
じゃない、笑い事じゃあない。なんだ、鏡の前に立ってる女の子は?俺?俺が手を動かそうと思ったら女の子が手を動かしたから俺なんだよな?
とにかく、すんごい可愛い。いや、可愛いっていう域を超えてる。ストライクゾーンだ。街でこんな女の子に会ったら、多分、頭の中が熱でうなされたみたいにポワンポワンしたまま1週間ぐらい過ごしてしまいそうな、そういう感じ?身体の割に頭が大きい、じゃなくて、頭の割りに身体が小さい?ロリータ体型って奴か?それでこのオッパイは…なんというジャストサイズ。大き過ぎず小さ過ぎず。あー畜生…このチチ触りてー…でも触ったら手の柔らかい感触が伝わるよりも先になんか胸から電気が走るような感じがして嫌なんだ。髪の毛はちょっと寝癖があるさらさらした軟らかそうな栗毛。これって将来ハゲるタイプの毛じゃないっけ?そして、ノーブラの上に男物(俺の)パジャマ…どうしたブサ面な俺。女の子と一晩過ごしたのか?(そして女の子になったの?)乳首は…どうかピンク色でありますよう…ってピンクじゃん♪
「♪じゃねーよ…」
また可愛らしい声でそんな汚い言葉使いを…。って、夢続いてるの?
「どうなってるんだ?考えろ、考えるんだ!」
俺はそのままの格好で部屋の中をウロウロしながら、ほぼ80%忘却の彼方に飛びそうになってる夢を思い出そうとしていた。そうやってウロウロしている時も、175センチの80キロ近い体重があった頃の"男の"俺の時はドンドンと響いて階下のドキュンにたまに怒鳴られてたりしたけど、今はトントンって感じで全然床に響かない、あ〜いいねぇ、ちっさいのはいいねぇ…。ってか、こんなにちっさいのに胸は立派にぷるんぷるんと自己主張してますよ。これ見てたらほんとにチンチン勃起しちゃ…ん?そういえばチンチンはどこですか?と、下のほうを見てみると、パンティーを履いてて、チンチンがありません。どうしましょう…とりあえず見てみますか。
「あ〜ん…毛がない」
毛がない。毛がありません。父さん、今日、なんだか頑張れそうだぞ〜!初めてパイパンみました。よかったよかった。おわり。
「じゃねーよ!考えろ!考えるんだ!Think!」
俺は髪の毛をグシャグシャとかき回しながらそれからベッドに潜り込んでゴロゴロとした。凄いドキドキしてイライラしてる。そしてストレス系のホルモンが大量に分泌されてる気がする。そして今まで味わったことのない冷たい汗を全身に掻いている。これが冷や汗って奴か?街で不良に絡まれたときもそんな汗を掻いた気がしたけど、そんなの比じゃない。街で不良に絡まれるなんて想定の範囲内だろ。今の状況はなんだ?
まず神様って名乗ったアラフォーの言葉を思い出すんだ。「お前を女にするから…」女の子として人生を楽しめだっけ?いや、違うな…どうせそんな事しても、同じ人生になるとか。いや、こんな人生味わってる人他にいないから。絶対いないから。三十路の男が、(たぶん)中学生ぐらいの女の子になったとしたら、最初にすることは…えと、オナニー?
「違う!違うだろ!こんな時ぐらいエロい考えやめろ!」
おぉぉ!この声、どっかで聞いたことあると思ったら、つい1ヶ月前に発売されたエロゲ、「桜色ドロップ」の「小日向まひる」じゃないか!よ、よ〜し…。
「違う!違うでしょ!こんな時ぐらいエッチな事考えるのやめてよ!お兄ちゃん!」
よし。
いや、何が「よし」なんだ。えと、どこまで考えてたっけ?何で女になったか?そりゃ神様にでも聞いてみてください。いや、その神様がなんか言ってたぞ、つまり…童貞で30を越えて、それで死んだ?あまりにも可哀相だから女にした?いや違うな。可哀相だから女になって、…そう!盛大な自慰だ。
盛大な自慰というキーワードが鍵だったのか。つまり、俺は今から俺自身に会い、俺自身とセックスをして来い、って事か。ふむ。全然納得できん。たったそれだけの事でこんな事してしまうなんて、頭大丈夫か?あのアラフォー。
考えてもしょうがないから、色々と状況を確認してみようと思う。まずは、今がいつか?アラフォー曰く、俺が生きていた頃だという事。カレンダーを見てみた。ん?ちょっと待てよ。今何年だっけ?っていうか、今日日曜日だけど、昨日土曜だよな?その前金曜だけど、俺会社で何したっけ?なんで思い出せない?だからか…カレンダー見て何をチェックしようとしたのか。まったく違和感が無いんだけど。
パソコンだ。まずはパソコンの電源を入れて…。しばらくするといつものデスクトップが上がる。つい最近俺がハマりつつある小日向まひるの壁紙に変えたから。確かにそこには小日向まひるが笑顔で笑っているんだ。つまり、時間軸は俺が生きている時間と同じって事じゃないか?ここ俺の部屋だよな。じゃあ俺はどこにいるんだ?同じ時間軸なら、俺は30歳で日曜の気だるい休日を過ごしてる事になる。この部屋で。
この部屋…。!。この部屋、俺がいるのか?!
突然、緊張が俺の周りを包んでいく。少しの物音すら耳が拾い上げてしまうように。そしてそっと自分の背後を見てみる。誰もいない。バスルームは…誰もいない。台所?いないか…ドアの鍵は閉まってある。えと、じゃあ鍵は…。財布の隣に置いてあるはず。あ、あった。俺の財布。それから視線は財布の隣にある携帯に移る。
携帯には会社の番号とか俺の実家の番号。しか入ってない。悲しい事に。じゃあ今は何が入ってるんだ?と、早速携帯を取って電話帳を開く。と、ここで俺は本日2回目の冷や汗を掻いた。
「な…なんじゃこりゃ…」
電話帳にあったのは「神様」と書かれた番号だけ。それは夢が現実であった事を再度認識させるには十分だった。まぁ女の身体になって騒ぎまくってる最中ではインパクトは少し低いけど、それでも驚いた。っていうかゾッとしたね。マジで。
「これ、繋がるんだろうな…状況説明してくれるのかな?」
そして早速掛けてみる。
…。
『現在この番号は使われておりません』
エー…。
いつぞや聞いた音声がそのまんま…。
『現在この番号は使われておりません』
はぁ…。何を俺にさせたいのよ…。
『現在この番号は使われておりません…っていうとるやろ。しつこい。はよ切らんかい』
「ちょっwwいるならいるって言ってください!」
『自分が何するのかわかっとんのやろ?他に何聞くねん?』
「状況が全然つかめないんですが…」
『そこはお前が住んでたボロアパートやろ』
「ボロは余計ですよ…俺が住んでたアパートは解るんだけど、俺はどこにいるんです?」
『あ〜…お前、高校生のはずやわ』
「は?だって、時間は過去に戻ってないですよ?」
『あ、ごめん。そのあたりごっつぅ適当やねん。アパート出たら高校生の時代設定のはずや。っていうか、今、神様権限をお前につけとんねん。設定は思うように変更できるで。ただし、お前の目的の為にだけな』
「神様権限?!設定?!」
『ほな、切るで…もうかけてくんなよ』
「え、なんか凄い適当じゃないですか?!」
プッ。という音と共に、ツーツーツーな状態になった携帯。実家の番号も会社の番号も消えた携帯。俺はそれを床に叩き付けたい衝動にかられた。でも叩きつけたところで何が変わるわけでもない。多分ぶっ壊れた携帯も何故かまた財布の隣にあるんだろ?つまり、俺に状況を作り出せという事か?
「よし…」
俺はクローゼットに向かった。状況を作り出せる能力があるのなら。こんな事も出来るはずだよな?と、その後に勢いよくクローゼットの扉を開く。そこには俺が高校に通っていた時の女子の制服があった。だが着かたが解らん。そりゃ俺は男だからな。
「面倒臭い。これでどうかな?」
頭で念じると、俺の服が一瞬で変わった。真っ白なブラウス、それから赤のスカートと、ニーソックス。首にはリボン。これが俺の高校の女子制服だ。冬はこの上にチョッキやらブレザー?だっけかな。
よし。では早速、俺の母校へと行こうじゃないか。
と、意気込んではみたけど、もう頭の中はずっとパニックだった。これからどうすりゃいいのか?童貞を奪いに行けって?ゲームじゃないんだからさ…。ゲームには終わりはあるけど人生はずっと続くんだよ…どうすりゃいいのよ、この身体で…。