タクシードライバーから聞いた怖い話

先日、一人で酒飲みに街をぶらりとして帰りはタクシーで帰った。
タクシーの運転手は最近は増え始めてる女性のドライバー。年齢は40〜50歳ぐらい?このオバハンが結構しつこく話してくる奴で、俺がまったりとほろ酔い気分を満喫しているところで「お仕事何してるんですか?」「最近は飲みに来る人は減りませんでしたか?」「今日は同窓会か何か?」だの色々と聞いてくるのだ。
ちょっとムカついて、少しからかってやろうと思い、女性なら怖がるであろう心霊系の話をしてあげた。と言っても作り話ではなく本当の話なのだが。
県内にある川上ダムというダム、ここは曰くつきのダムで、これまでに何度も死体が見つかっている。事故死と思われる人や自殺者などケースも様々だが、一時、タクシーのドライバーが乗車拒否したほどに幽霊が出る時期があった。「出る」って言っても、例えば乗せたはずの客が居なくなり代わりに後部座席には水が…とかいうのはなくて、白い人影が頻繁に出るようになり、それが見たくないので川上ダム方面には行かない、って話。
あまりに何度も目撃されるので警察がダム近辺を捜索したところ、ダムの中から沈んだ車が見つかり中から女性の白骨死体が…。という話をしたんだが既にこの話はタクシーのドライバーの間では昔の話だったみたいだ。で、その女性ドライバーからは「最近は…」というわけで、タクシードライバーの間で最近、恐怖の対象となっているある場所についての話を知る事となった。
心霊スポットとして人が沢山来てしまうのが嫌なので場所はあえて書かないが、話せばどこかは解る人には解るはず。徳山大学の道をずっと上へと上がって行き、徳山高等専門学校の道を山へ向かって進んでいく。山道を進んでいくとちらほらと家があったり、企業がゴミ捨て場として買い取っている空き地などが途中にあり、実に寂しい所。そのまま進んでいけばため池、神社?などがある。
何年か前の冬。同じ会社のドライバーが街で拾った客をその方面へと届ける事となった。だがドライバーはその場所についてあまり詳しくなく、酔っ払っている客の言うとおりに街灯も無い雪が残る山道を進んでいった。後でわかった事だが、その山道を進んでいくと先ほど話した寺やため池を「折り返し」地点として、山から降りる道に出る。そのまま山を降りていくと、実は国道へと出るのだ。
さて言われるままに徳山大学の道を上に進んで、高専の門前を横切り、山へと進んでいく。周囲は街灯はなく、どんどん暗闇に包まれていく。車のライトが照らすのは降り積もった雪、雪、雪。開けた場所に出たと思ったらゴミ捨て場で粗大ゴミが積んである。客はまだまだ奥へと進めと言い、不安になりながらも進んでいくとため池に出た。そこを折り返しとして、住宅街へと進む。対向車と出会えばジ・エンドって感じの細い道を進んでいくと客が住んでいるという住宅街へと出た。そして無事そこで客を降ろして、また街へと戻る事にしたのだった。
ここで国道へと出る道を知っていればわざわざ来た道を戻る必要は無いだろう。でも知らないんだからしょうがない、誰だってそうするだろう。無線で今から戻る事を会社へと伝えて、ため池、ゴミ捨て場、と車を進めていくのだが、ゴミ捨て場の辺りに来たところで「道を間違えた」と思ったそうだ。来た道と違うと感じてとりあえずバックで戻る事に。
雪が降り出す中で慎重に細い道をバックで戻るのだが、途中、何かに足を取られて進まなくなった。雪が深い所へノーマルタイヤで入っていって動かなくなるアレみたいな感じだったそう。でも雪は降り始めてはいたけれど、タイヤが取られるほどでもない。車から出てタイヤを見てみよう、と思って外へと出ようとするのだが…なぜかドアが開かない。
この時の事を女性ドライバーはまるで自分が体験したみたいに詳しく話すので、聞いてるオイラは結構ビビっていた。ドアが「開かない」ってのはピクリともしないんじゃなくて、少し押せるのだが、まるで向こうから何かが一生懸命押し返してるみたいに「開かない」のだ。雪が降るなか、運転席側の窓は外の景色が見えなくなってて、でも押し返してくるから何かがいるってのは解る、つまり心臓が止まりそうなほどに滅茶苦茶怖い状況。押し返してるのは動物か何かではないとは解るらしい。動物なら押し返すような事は考えないから。
半分パニック状態でドライバーは無線で会社へと連絡。繋がらない。ラジオの電源を入れる…ノイズばっかり。エンジンをふかして前に進もうにも進まずバックしようにも進まず。で、恐る恐る窓を少しだけ開ける。周囲から誰かがいるような気配がないか確かめるためだ。だが雪が降っている状況が目に飛び込んでくるだけで特に何もない。でもドアを開けようとするも押し返される。
と、そこでドライバーは声を聞いたのだ。
暗闇で誰かがドライバーに向かって話したわけじゃない、その声は子供がはしゃぐ声だ。位置関係は解らないはずなのだが、ドライバーの脳裏に浮かんだのは「ゴミ捨て場で遊ぶ子供の姿」だった。雪が降り積もる深夜1時ぐらいのゴミ捨て場のほうから子供の声がするのだ。変だ、と思うよりもさきに恐怖が襲ってきたらしい。何かの力がそのタクシードライバーをゴミ捨て場の近くの道路で動かなくさせて、そして声を聞かせるように思えたのだ。
あまりの恐怖に即座に窓を閉めて身体を丸めてそのままじっと待った。声が聞こえなくなるのを待つのだが、一向に声は収まらない。その場違いな楽しそうな声が次第にタクシーへと近づいてくる。極度の恐怖とストレスで口の中はカラカラ、全身がガタガタと震えて、背中から冷たい汗が絶えず流れたらしい。そして声は明らかにタクシーの周りにあり、その次の瞬間、本当に失神してしまう出来事が起きた。
タクシーが揺れた。ゆっさゆっさと、誰が押している。全体を押しているのだ。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
と自分は発狂したんじゃないかって言うほどの大声を上げて、そこで意識を失ったらしい。で、翌朝、タクシーのドライバーは目が覚めて周囲を見渡すと、ゴミ捨て場近くの道路にいたはずなのに、何故かため池に車があった。しかも、後輪を池に突っ込んでいた。ドアは無事開いて外へと出て唖然とするドライバー。
で、地面を見てまた悲鳴を上げそうになった。
雪の上に小さな子供足跡が沢山。まるで車を押してため池に落とそうとしている感じだったそうだ。
a munkは「もしかして、後で車をみるとベタベタと子供の手形がついてるんじゃないですか?」と女性ドライバーへ話してみた。そんな話をどこかのサイトで見た気がしたから。残念ながら手形は付いてなかったみたいだが、
「運転席側の窓にね、顔を押し付けたような後があったんだって。その顔は明らかに思いっきり運転手のほうを睨んでような感じでね」
俺は女性ドライバーが少しでも話しに着色をしてa munkを怖がらせようとしている事を望んでいた。そしてa munkが予想通り怖がっているのを見て薄ら笑いでも浮かべてくれれば少しは気が楽になったのだが…残念ながらそれはなかった。自分から話をしといて、ハンドルを握る手がガタガタと震えていた。
「人に話をすれば少しは恐怖が薄まると思ったんだけど、無理やねぇ…。ほんと、アレは滅茶苦茶怖かった」
自分以外の人間が体験したかのように話してしまえばいいと思ったのだろうか、実は彼女の体験談だったみたいだ。