6 体育祭! 9

リの騎馬がうまく作れないところの横で、同じくなかなか騎馬が作れないでいる人がいた。わが新聞部の一人、キヨハルだ。
キヨハルはデブ男だった時の癖?みたいなもので、食事をした後は凄まじく眠くなるらしくて、それは冗談抜きにして麻酔なしでもその深い眠りだけで手術が出来てしまうほどらしい。
さっきあれほど沢山食べたせいもあって、まるで妊娠したようにお腹(胃)が膨らんでいる。男子3名は何とかその眠りこけてる妊婦…いや、キヨハルで騎馬を作ろうとしている。後ろ役の男子2名は妊婦…いや、キヨハルの足を抱えて前の男にとりあえずおんぶさせようとする。その情景はあたかも分娩台の上に妊婦を乗せる出産時の光景みたいだ。
「キヨハルちゃん、起きて、ほら、もう試合が始まっちゃうよ」
力なくぐったりしているキヨハルの肩をさすって起こそうとする。まるで反応なし。死んだみたいに寝てる。いや、もしかして死んでる?
そうこうしていると、見かねたわが新聞部の部長からカツが飛んできた。
「キヨハルー!!!エサの時間だーッ!!」
犬か何かなの…。でも、起きた…。
「ん?もうそんな時間かぉ?」
いや、さっき食ったばっかりでしょ、あんた…。
そういえばむっつりんの姿が見えないな?どこいったんだろ?
と、ボクが探していると、いた。いたよ。なんだ、あの低姿勢な騎馬。そのむっつりん騎馬は男子も選りすぐりの変態ばかりと編成を掛けたときから話題になっていた騎馬だった。芸能人で盗撮とか繰り返して何度も刑務所とシャバを行ったり来たりした人がいたけどまさにそういうちょっと根暗でヤバそうな、盗撮とか盗聴とか絶対にやってそうな男子だけだった。
普通、編成する時は適当に決めるんだけどむっつりん騎馬だけはむっつりんが選んだ男子のみで構成されたんだよ。なんでも新聞部として参加するから、という理由で。ボクは知ってたんだけどね。新聞に乗せるエッチな写真欲しさにそういう編成にしたって事も。それにしても低姿勢。あれはなんだろう。写真を取るに一番いい姿勢なのかな。
そろそろ試合開始になる。
ボクは向こうのクラスの騎馬も見てみた。
その時、ボクは目が合ってしまった。
ヤヤさんと。
というか、ボクが目を合わせてしまうずっと前からヤヤさんは明らかにボクのほうを見ていた。そして目があってすぐに下を俯いていた。それはどう考えてもボクに気があるような、そういう感じだった。顔を真赤にして俯くヤヤさん。
またボクのほうをみた。あ、それからすぐに目をそらして俯いた。
ヤヤさんは男子に向かって何か言ってる。
ボクはなんとなく、この騎馬戦がヤヤさんにお近づき(読んで字の如く)できるチャンスだと思ってしまったんだ。向こうだって気がある。女の子に(中身は男だけど)あんな表情されたのは人生でこれまでもこれからも無いかもしれない。だからボクは頑張ってみることにしたんだ。
「あの右から3番目(ヤヤさんの騎馬)に向かって」
と、ボクは男子に言ったんだ。