12 一人飲み 5

夜に出かけようと思っていた。夜ってのは具体的には人が少なくなり始める23時頃。だけどお腹が減りすぎて空腹でたたき起こされた感じになった。
22時の事だった。
それからテレビみたいしながらようやく23時となって、俺は昼間買ったワンピースに着替え、同じく昼間かったアイフォーンを手に持って夜の街に出た。目指すは「飲み食い処・葉民」
一人でそういうお店に行くのが怖くないかとか色々と思うところはあったけど、俺には男の友達が居ないし、友達になれそうな女性も居ないし、そういうわけで、XX病が原因で脳は男のまま、身体が女性化した俺には友達がいない。もう随分一人で過ごしてきたから寂しいとか感じ無くなったな。
葉民について受付にいた女性にお一人ですか?と聞かれ、はいと答えるとカウンターへと案内された。
人は…居た。
少ない時間を狙ったのにこんな夜遅くにもいるのか。サラリーマンっぽい男性が一人。どうやら残業でもしてからその帰りにお酒を飲もうって来てるっぽい。そうか、俺と同じ様な事を考える奴がいるのを計算にいれなかったか。でもまぁ、カップルだとか家族連れだとかじゃなくてよかった。そうだったらうるさくてしょうがなかった。
席についてから俺は「とりあえず生ビール」と一言。
とりあえずなんて扱いをしてしまったらビール様に失礼だとは思いながらも、とりあえず生ビール。これから沢山飲みますよっていう合図だ。
おつまみっぽいのを2、3品注文して、ビールはあっという間に飲み干した。2杯目。まてよ、俺って女になってからコンビニで果実酒買って飲むぐらいでそれほどお酒飲んでないけど酔いやすくなってるとかないよな?
俺は2杯目のビールを半分ぐらい飲んだあと、自分に問いかけた。まだ全然自分を保てているよな?って感じに。その返答はもちろんYESだ。男の時から酒は強かったんだ。女になったからと言って仮に弱くなってもたかがしれてる。
2杯目も完全に飲み干した。さてと、そろそろビールのようなジュースみたいなお酒はもういいかな。ランクアップしないとね。というわけで次は日本酒を注文。2合ほど飲み干したところで店の様子を見てみる。シーンとしているな。テーブル席とかは。後はカウンター。
あのサラリーマンと目が合ってしまった。
さすがに女子高生みたいな年齢の奴が自分(サラリーマン)よりも沢山酒を飲み散らかして真っ赤な顔しをしてるんだから、案の定驚いていた。俺の眼つきが悪いのか、すぐにそいつは目を逸らす。なんだ?俺ってそんなにガラが悪い女に見えたのか?デリヘル嬢には髪を真っ白にして歌舞伎役者みたいな髪型した奴もいるけど、俺の髪は日本人そのもの、生まれた時から染もしてないぞ。
俺はそのサラリーマンらしき男をじーっと見つめてみる。目が合わないように前のほうを向いて「私はあなたに興味ありませんよ」という事をアピールしているようにも見える。
なんか、この人どこかで見たことあるぞ…。
あ、この人、俺のお客さんじゃないか…。

12 一人飲み 4

よくよく考えると服というものは生活必需品の中にありながらもバリエーションが多くて、しかも高いものが多い。特に女ものの服は総じて高かった。
俺は黒のワンピースを買うことにした。
下着も合わせて買って、ガーターやらストッキングも何故か必要らしく、それをフルセットにして5万以上取られた。5万は今の俺が持ってる全財産からすれば安い値段ではあるけども、以前バイトしていた時に5万稼ごうと思ったら死に物狂いで色々と生活をやりくりしながらでなければ稼げない。
「はぁ…」とため息が出てしまう。
まぁ、店長も着たきりスズメ状態は勘弁してくれみたいな事を言っていたし、そういう意味では別に俺のプライベートだけのものじゃないから少しは5万も還元出来るかもしれないな。それにしても、俺以外の風俗嬢はさらに金掛けてるんだろうな。っていうかマユさんなんて同じ服着てるのみたことないからな。これはちょっとオーバーかもしれないけど(実際は同じ服があるのかもしれないけど)それぐらい、沢山服持ってる事になる。子供の養育費もバカにならんのによくまぁ、あれだけ沢山服買う金があるもんだ。
そのまま帰るのもあれなんで、俺は他にも欲しかったものを買うことにした。今俺が持っている携帯は旧世代のガラパゴス携帯って奴で、本当にプラスチック感の離れない安っぽい触り心地と見た目の携帯だ。持っていて俺は貧乏ですよってアピールしているようなものなんだ。だからこれも買い換えてしまおうと思った。
最近流行ってる海外物の携帯に変えようかな。
俺はアイフォーンって奴を買うことにした。
タッチパネルが男の時の俺の手にはフィットするけども、女になった俺にはちょっと大きすぎる感じはするけど、そこは我慢した。
これでお金持ちの仲間入りしたような気分になれた。買ったばかりのそれをちょこちょこと両手で持って(片手で持つと落としそうになるので)いじりながらネット見てみたり、何も入ってない電話帳を見てみたりと、暇つぶしには最適だ。
「やべ、これめっちゃかっこいいかも」
昼間の人の少ないショッピングモールの休憩所に一人腰掛けてぶつぶつと独り言を言いながら、携帯をいじりまくった。

漁船領海侵犯 - その背景と、これから

マスコミでは中国からの観光客が減るがどうとか、日本製品不買運動が起きるがどうとか、こんなのを見ても普通の日本人なら「あーそう。いつものことか」と思ってたりするけども、実はこれは一つのターニングポイントになっている。この漁船領海侵犯事件の背景に何があるのか。
今回はそれについて考えてみよう。

なぜ中国は必死なのか?

まず中国はボスが複数いるという事。中国共産党と言っても、内部には派閥がある。貧乏な国で教養が無ければ無いほどに欲深くてバカな人間が多いというのはどの国でも言える事。この派閥の中にも色々と居る。

  • 中国は今国力があるからコレに乗じて日本を乗っ取ろう
  • 狙いは台湾・沖縄。今から戦争を仕掛けるからまずは日本に脅しを掛けとかないとダメだ(戦艦などが通る航路上が日本近辺なので)
  • アメリカが中国の増強に恐怖をいだいている。先手を取らないとまずい
  • 実は漁船の船長は台湾・沖縄・日本侵略に関する情報握っていて、それが公にされるとまずい
  • 中国は今好景気。国民の関心が中国共産党に向きそう…。ガス抜きしようにも民主党親中派だ。だからこの事件は非常に都合がいい(ついでに日本から金を貰えそうだし)
  • いつもの調子で文句言って(国民も先導して)やってたら自民の時代と違って民主は天然で反発してきやがった。もう強硬姿勢で言ったもんだから引き際がつかめない。ヤバイ。マジやばい。
  • 実は好景気なようでバブルが弾けて崩壊が始まる予兆を掴んでいる。まだ国力がある(と国民が思っている)うちに戦争を仕掛けよう

上のどれか、またはその複合が起因だと思われる。

アメリカの思惑

これに加えてアメリカでは色々な意味において中国と戦争をするだけの理由が整いつつある。

  • 中国は共産主義でそれが今好景気で国力があがってきている。戦争を仕掛けられたらまずい(以前、太平洋を中国とアメリカで支配しようと持ちかけられている)*1
  • 中国に金が動いているせいで国内に金が回らなくなってきている
  • 軍事産業は生き残りの為に定期的に政府からお金をもらわないといけない。つまり定期的にアメリカが何らかの理由をつけて戦争をしなければならない。もうイラクは占領しちゃったので次のターゲットを探している
  • 中国の国内でバブルが弾けそうなのを感知している。もしバブルが弾けるとまた第2次世界大戦の時みたいに、戦争に踏み出すかもしれない。今叩いておかないとマズイ

中国周辺各国の思惑

ニュースで度々話題になるが、中国近辺の国も警戒を強めている。インドと中国の衝突は随分前から話題になっていたよね。中国は好景気になってから近辺の国々に支援をしようと金を送り続けている。ただ、あまりにもあからさまに態度を豹変させていたので近辺の国々はさらに警戒を強め、中国包囲網を完成させつつある。これは日本も含まれる。

日本の思惑

アジアの色々な国々の中で一番よくわからないのが日本。
もうお分かりと思うが、日本は戦前から中国・アメリアの二つの考え方の中間点にあって、ふらふらとどっちつかずに動いている。
日本での右翼・左翼がいい例。
右翼とはアメリカ寄りでもなく、中国よりでもない、完全保守派と、アメリカ派がある。左翼はマスコミに洗脳されて、色々な国と仲良くしましょう、戦争は反対です派と、アメリカは危険、中国からお金貰ってます派がある。
ではこの右と左に分かれてる日本(政府)としての思惑は?

  • 中国に国土(沖縄・九州)を明け渡したい
  • 着々と戦争の準備を始めようか
  • 軍備は拡張して戦争するポーズはとるが、いざとなったらアメリカの支援を得よう。というか、アメリカが定期的に戦争をしなければならない事は知っているので、現在どのように中国を攻撃していくか、マスコミにどのように説明するか(または日本の左翼よりのマスコミをどのように消すか)検討中

ところで、民主党って左翼(中国寄り)なのにどうしてアメリカと共謀するのかって話があるけど、まず第一に三権分立してるから官僚やら軍とアメリカのつながりもあるということ、第二に、菅直人は親米じゃないのか?って事があげられる。

これからどうなるのか?

a munkはこれから戦争になると予測している。
まず沖縄や台湾を攻撃する為に中国は軍艦を送り込むだろうから、自衛隊・米軍の艦隊と衝突する。もしそこで押されてしまえば、次に戦場になるのは台湾・沖縄。そこでさらに押されると次に戦場になるのは九州・インドネシア・マレーシアなどなど。
もちろん台湾やらインドも参戦すると思われるからもっと状況は複雑になるし、万が一にもロシアが中国側についたら、ヨーロッパ諸国からの反発は避けられない。こうなるともう第二次太平洋戦争どころじゃなく、第三次世界大戦になるだろう。

*1:アメリアもロシアもそうだけど、対立する国と国の間に何かクッションになる別の国が無いとマズイ。ロシアにとっては北朝鮮などがソレ。アメリカにとっては日本がソレ

12 一人飲み 3

「お決まりですか?お手伝いしましょうか?」
店員は俺が物色していた服と俺を見比べながらニコニコしながら話し掛けてきた。このお店にあるような感じの派手派手な服に身を包んだ店員。ちょっと化粧が濃い。垂れ目でお世辞にも可愛いとは言えない。俺が「お世辞にも可愛いと言えないなぁ」と思っていたその瞬間に、その女性店員はそれを察したのかどうかはわからないのだけれど、むすーっとした顔になった。
「えっと…どれが似合うかなと思って」
とこれもまた、俺は我ながら女殺しの台詞を吐いてしまったと反省しちゃったりしてる。「あんたは色々似合うでしょうよ、何着ても似合うよぉ、とか言わせたいの?」とでも言いたそうな寂しい顔をしている。
「このワンピとかはちょっと派手で子供っぽいけど、お客様なら…似合うかもしれませんね。ん〜。似合うだろうなぁ(笑)」という微妙な空気が流れる。そして、「試着されてみてはどうですかぁ?」と言う。試着かぁ。俺は男の時から服を買うときの試着っていうのが嫌だった。家以外のところで服を着替えたりするのが嫌なんだよな。それも一度も着たことの無い服とか。
「ん〜」と俺が躊躇っていると、
「試着しましょ!似合いますよ〜」
と強引に俺を試着室へと連れていこうとする。なんか、この女の人、俺に勝てるところがあるのだと悟ったっぽい。つまり、おとなしそうな性格の俺に勝てるのは自分の性格だけだ、っていう感じだ。
試着室で鏡を前にして俺は渋々と着ていた服を脱いだ。よく考えてみるとこの黒のワンピは下着もそれに合わせないとまずい事に気がついた。そして着ている最中にもう一つ気付いたことで、これは下に下着をつけないでワンピースが下着の代わりになるかもしれないという事だ。
「ほほぅ、これは下着も取るのか」
とか言いながら俺はブラとパンツを脱いでワンピースを着なおした。なるほど胸の部分がフィットする感覚がある。でも背中がなんだか涼しい。そういうもんなのかな。
「いかがですか?」
と店員。その声は焦ってはないんだけど、凄く焦らせているように感じてしまう。俺はこういうのもあるからお店で試着するのが嫌なんだ。こうやって焦らせられるから。
「えっと、たぶん、OKだと思います」
OKだと思いますっていうのが買うのがOKなのか試着が終わったのか、自分でもよくわかんない。ゆっくりとカーテンをめくってみる。店員が覗き込んできた。
「おー!似合いますね。似合う〜!」
何か嬉しそうにしている。
「あ、背中、締めましょうね」
店員は強引に試着室の狭い空間に入ってくると、俺の背中側にまわってホックを締め始めた。
「え?ノーブラなんですか?!」と突然言う。
「あ?え?下着つけないんじゃないんですか?」
「多分〜…違うと思いますよ」
俺は慌ててワンピースを脱いだ。この狭い空間の中で素っ裸の俺と店員さんの二人だ。一体何のプレイなんだろうと考えてしまう。女は女の裸を間近で見てもなんとも思わないんだろうか。もしそうならそれだけが唯一の救いだ。でも、そういうわけじゃないみたいだ。俺の裸を(特に胸の部分を見ながら)「ほぉ〜」とでも言いたそうな表情をしている。
「スタイルいいですね〜」
これはお世辞でも嫌味でもなく、本当に関心した風に言ってくる。
「は、はぁ」
「おっぱいも、大きくもなく、小さくもなく、美乳という感じで…」とか言いながら、着かけたブラの上からおっぱいに手をぽんと当ててくる。これは女性の間でも失礼な行為じゃないのか?まぁいいか…。
「下着の色も合わせたほうがいいかもですね?」
やっぱりそうか。

12 一人飲み 2

マユさんが何度か話をしてくれたのは、ここいら(デリヘルの待機部屋があるマンション)の近くに歓楽街があるし、そこで朝まで開いている飲み屋もある、って話だ。マユさんは行かないみたいだけど、よくこの店に勤めてる他のデリ嬢が行くらしい。
デリ嬢は俺とかマユさんみたいに昼勤務ってのは珍しくて、基本は夕方出勤の明け方帰り。そこで中のいい女の子同士で「ちょっと飲んでいく?」って話になって朝まで開いている飲み屋に行くのだとか。
で、飲み屋も飲み屋でそれを承知しているからか、いちいちデリ嬢の年齢確認はしない。実はデリ嬢は20行って無い奴もいるから、警察に見つかったら確実にアウトなんだけど、朝だから警察もウロウロとしないのだ。
で、俺は貯まったお金の使い道として、どこかで美味しいものを、美味しいお酒と一緒に楽しみたいと思ってたのでちょうどいいスポットを見つけたと思った。
駅の近くの高架橋の下に細長いビルが並んでいる。そこにチェーン店の飲み屋がある。「飲み食い処・葉民」とかいうお店だ。オープンは17時で閉店は翌朝の5時。まさにデリ嬢どころか水商売関係の人御用達の飲み食いどころだ。
ターゲットはそこに絞って、俺はさっそく準備に取り掛かった。準備って行っても、なるべく周りの風景に溶け込むような感じにしたい。俺の普段着はちょっと俺の趣味も入ってどっちかっていうと「可愛い」服なのだ。学生に思われてしまう。セクシー系の服で風俗嬢ですよとアピールしないときっと警察に捕まってしまう。
というわけで、俺はその日、生理休暇を貰って(生理は来ないんだけど、生理こないって変だと怪しまれるので月に1度は休暇を取ってる)ショッピングモールに足を運んだ。
平日の昼間はさすがに学生の姿はない。だから学生が足を運びそうな店には客はあまりいなかった。それが唯一の救いだ。身体は女でも頭の中は男だから、そういう店に堂々と足を運べない。男が女の服を買っているって誰も思わないだろうけど、俺はそう思ってしまうからだ。
人はあまり居ないが、ただ、カップルやら一部の同業者っぽい派手派手セクシーな格好の女が来てた。化粧臭い店内を臭い臭いと手で仰ぎながら、俺はセクシー系な服を探した。ある程度俺の趣味的なものは入れるつもりだけど、しつこく趣味を入れるとコスプレみたいになるから注意が必要だな。
俺は黒のミニスカのワンピースと、ショートパンツとタンクトップ(上からシャツを羽織る)奴を見比べながらどっちの系統がいいか考えていた。
さっきから視線が気になっているんだけど…やっぱり店員が来た。あぁ、俺って女に話し掛けられるの慣れてないんだよな。

12 一人飲み 1

水商売ってなんで水商売って言うのだろうかな、考えたことはない。
俺と同じくデリバリーヘルスで働いてそれで得た金で子供を育ててるマユさんにそれとなく聞いてみた。
マユさんも知らなかったみたいだ。
説として一つは湯水の如くお金を得ることが出来るけども、湯水の如くお金を使ってしまう(衣装代だとかで)からだとか。もう一つは日本ではそこら中にある水みたいに、使う方も貰う方も全然金銭感覚がなくてバンバンお金が動くっていう意味で。
とにかく、俺はデリヘルの仕事に慣れ始めた頃、俺を指名する客が多いのか、お金はどんどん貯まっていった。必死でバイトしていた頃が嘘みたいだ。女ってこんなに稼げるのか…とまでは言わない。同じ女でもマユさんは指名はあまりないみたいだし。女で可愛いかったらこんなに稼げるのか、かな。
あえてケチな事を考えないようにした。
コンビニでは値段とか見ないで必要なものを買うし、服もそれなりに人が見て仰天しないような女の子の服を選んだ。まぁ、普段着として1セット、仕事着として1セット。店長からは仕事着はもうちょっと欲しいとか言って来たから、「じゃあ店長が買ってくれ」と言ったらもう言わなくなった。俺の中身が女なら店長が言うまでもなく、どんどん派手な風俗嬢衣装を買うもんなんだろうな。よほどに俺は着たきり雀らしい。
貯まった金で何かを買おうとは思わなかった。
車も欲しいと思ったこともある、免許も欲しいと思ったこともある、パソコンとかも…。でも今はそれほど欲しいと思わない。っていうのも、やっぱり以前、生活に苦しくて死にかけた事が、あの傷が言えないってことなのかな。冗談抜きにして今だに俺は警戒してるみたいだった。無意識のうちに。「ひょっとしたら、仕事を無くして金がなくなって、また同じ目に会うんじゃないのか?」って。
それでふと、ひとつだけ使い道を考えてみた。
それほど高くなくて満足出来る事…。つまり、どっか美味しいものを食べに行こうかなって思った。ふと、どこかにふらりと旅をしてみたくなった。

22 2xxx年宇宙の旅 27

停止していた軌道エレベータが動き始めた。っていうのがなぜわかるかっていうと、僅かな電子音が響き始めたからなんだ。重力が制御されているので上昇しているっていうGは感じ取れない。
さっき網本が大量にばらまいたうんちはどうなったかって?もちろん、そこら中に散らばってるさ。でもフロアのサイズはうんちに比べて格段に広いから外国から来た人が涙を流しながらうんちをハンカチで取っている以外はみんな落ち着いたものだったよ。うんちが頭に降ってきたなんて日本語で言わなきゃわかんないし…。
色々とあったけど、これでようやく旅も目的地に到着して終わろうとしてる。
西遊記じゃないけど色々と苦難を乗り越えて到着したこの場所は随分と高尚に見えるなぁ。観光客向けに改造された宇宙ステーションの大窓フロアから見える地球はとても綺麗だ。青く輝いていているその天体は僕達が遥か空の彼方からまるで神の如く見下ろしているにも関わらず、その存在を示して僕達の存在をちっぽけなものなんだと再認識させてる。
とても素敵だ。言葉でうまく言い表せないよ。
「どうだ?来てよかっただろ?」
シャワー室で着替えてさっぱりしてきた網本が言う。
「うん、まぁ、ね」
「俺はこれが見せたかったんだよ」
「地球の姿?」
「まぁ、そうなんだけど、あれだ。お前らは嫌っていうほどテレビやら映画とかでこんな映像を見てたかもしれんけど、自分の目で見て感じ取って欲しかったんだよ。俺もそうしたかったし、そうしたらまた何か別の考え方が見つかるかもしれんと思ってな」
別の考え方かぁ。網本の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。この人、右翼団体に所属していて、自分と異なる考え方の人達を排除する思考なはずなのにね。
そしてお菓子食べながらアニメばっかり見ていたぶーちゃんも強化ガラスごしに顔をぺったりとくっつけて地球を見下ろしていたんだ。
「あたしたちの住んでるところ見えそう?」
「ん、ん〜。わかんないな。でも、こ、こうみると、ま、まるで自分達があそこに住んでるって思えなくなるよね。な、なんだかね」
「あー。うん、それはあるかも」
僕達が住んでるところはお世辞にも緑に囲まれた環境でもないし、都会のど真ん中でもないし、色々と中途半端、しかも木造のボロアパートで、中にはアニメグッズとコンピュータばっかり、そんな意味不明な空間がこの綺麗な地球の日本ってところにあるわけなんだよ。ここから見下ろしたら1ドットの中に入ってるかどうかもわかんない。
でも確かにそこに僕達の世界があって、そこで暮らしているから、確かに僕達は地球に住んでるんだけど、こんな高いところから見下ろしてこんな綺麗な景色を見せられたら、まさかこの中にオタク空間が広がっているなんてね、わかんないだろうしね。
クリさんもぶーちゃんを真似て強化ガラスに顔をくっつけて見てる。なんだろう。こんなクリさんを見るのはじめてだなぁ。僕が話しかけようとした時、クリさんのほうから話し掛けてきたんだ。
「我々はどうしてここにいるんだろうな?」
「どうしてって…そりゃ旅行に来てるからじゃん」
変な質問をするなぁ。
「いや、どうして旅行に来てるのかと思ってな」
「興味があるからじゃない?」
「そうだな…興味か。今ふと、なぜ人間が…いや、生物が生きているのか考えていた。私には今は、『この地球の姿を見たかったから』生きていたんだと思えてならない」
「そうなの?種の保存とかじゃなくて?」
「種の保存か…ただそれだけの為とは思いたくないな。それなら想像力も娯楽も探究心もいらないはずだ。ただ生きていけばいい。でも人は、この宇宙に出てきて地球の姿を確認しようとした。きっとそれが我々生物のとりあえず今の目的なのだ。宇宙ステーションを作ったりして、いずれは火星にも金星にも行くだろう。そこに様々な植物や動物を連れてきて、人を中心とした生活空間を作っていく。そしてまた宇宙へと旅立って…。真理を得ようとするのだろう」
「真理…」
「私は自分が今までやってきたことが正しいのか間違っているのかを考えたことがなかった。もし考えてしまって間違っていると思ったのなら、そこで何もかもが終わってしまう気がしたからだ。きっとそこで誰かと結婚をして子供をもうけて、種の保存をしようと考えるだろう。一人の人間として。だが、私は今、自分がやってきたことが間違っていないと言える。宇宙から見下ろした地球を見たときに、人々は英知を得てそれを利用し、そしてまた英知を得ようとするものだと思う。私もまたそうだ」
僕はクリさんの事を最初は、最初あったときは、変な人だと思っていた。けれども、別に変じゃないんだ。それも人の中の一つなんだ。
何かを知ろうとすることも。