6 体育祭! 2

どうやら障害物競走をやってるみたいだ。
あ、パン食い競争だったのかな?
むっつりんが何かを感知してトラックのほうに向かったのは理由があるみたいだ。なるほど、むっつりんの感は正しかったね。ちょうどパン食い競争では我が新聞部の大食いキヨハルがスタート位置についていたんだから。
パンッと合図がなると一斉にスタート位置に並んでいた選手たちは走り始める。けど、キヨハルはあれでもボク達の中では一番体力が無いんだけど何故かトップを独走中だった。それもそのはずだ。参加してる男子はみんなデブばっかりじゃないか…。
キヨハルはその小さな身体を活かし、ちょこまかと動いて、あっという間に障害物を超えて目的のパンのところに駆けつけた。あとはお決まりの…そう、パンを口で引っ張って外して食べる、んだけど…。
「あちゃーっ。想定外の事態発生だな」
それを見ていたアヤメが言う。
キヨハルの小さな背丈ではパンまで届かないのだ。ジャンプしても全然だ。そうこうしているうちに他のデブ達がよたよたと障害物を超えて(それでも全然トロい)迫ってきている。そして、ついにはキヨハルの横、パンが吊るされた場所までやってきて、悠々とパンを紐から外していく。
なんという光景なんだろう…デブ達が、デブ達がパンをむしゃむしゃと食べている。揃いも揃ってキヨハル以外は全員デブ。そのデブ達がいやしくもそれがレースであることすら忘れて、むしゃむしゃとパンを食べているんだ。
途中で味に飽きたのか、デブ同士でパンを交換して、やれあずきは美味しいだのカレーパンがあっただの談笑しながら食べている。なんていう醜い光景なんだ。もうレースとか全然関係ないじゃん。ボク達はあのデブ達がむしゃむしゃとパン食べる光景を見るために体育祭に来てるんじゃないんだよ…。
そんな中、背がちっちゃくてパンをトレードしようにも手持ちのパンがないキヨハルは…ボクは今までそういう光景をテレビや映画の中では少なくとも見たこと無かったんだけど(アニメは漫画の中ではあるけど)…「指を咥えて見ている」というまさにそれをやっていた。多分、あの咥えた指はしゃぶりすぎてふやけてしまっているんじゃないかっていう程に、恨めしそうな目で周囲のデブ達の談笑を見ていた。
っていうか、パンを分けてあげりゃいいのに…。もうレースとかどうでもいいんでしょ、あのデブ達。
と、その時だった。
一人のデブがキヨハルの元に歩み寄ると、彼女の小さな身体を抱えてあげてパンに顔が届くように持ち上げた。デブの腕の中で可愛らしい女の子が(お腹を空かせた女の子が)パンをほうばってはじっくりと唾液を絡ませて味を楽しんでいる、まさにそういう異様な光景が広がっていたんだ。それからデブは自分の食べかけのレーズンチーズパンとキヨハルが食べてたうぐいすパンをトレードした。
そんな微笑ましい(?)光景が終わると、みんな仲良く(チンタラと歩いて)ゴールした。
何故か会場には拍手が起きた。
アヤメが一言言ったんだ。
「アホだな」
うん…アホだね…。